誰も知らない

誰も知らない

2004年8月21日 錦糸町楽天地シネマにて

(2004年:日本:141分:監督 是枝裕和)

『ワンダフルライフ』が人間の死後の世界、『ディスタンス』が宗教団体の集団テロ事件の加害者の家族達をドキュメンタリータッチで描いた是枝監督の新作は1988年に実際に起きた育児放棄(ネグレクト)事件をモチーフにしたもの。

相変わらずの手法で社会的に重いテーマをもってくるところは変わらないと思いました。

今回は母親(YOU)が恋人の元に去り、時々の送金だけで生活していく4人の子供を扱ったということで、評判になっていますね。

しかし、「結局、母親が悪いのよ」という視点は極力避けるように、子供たちが自分たちのルールで生き抜いていく内面世界をメインにしています。出生届けも出されていない、学校へも行かない・・・世間からは「存在しない」はずの4人ですが、長兄・明を中心に時にしっかり、時に悩みながら寄り添っていく姿を演技が素ではないかと思われるくらいのリアリティをもって描ききったのは自信と勇気と執念がないと出来ないことでしょうね。

映画は家族が引っ越してくる秋から始まり、冬、春、夏と一年を順を追っていきます。撮影も一年間アパートを貸し切って撮影したということで、季節感がまたリアルで美しいです。寒さや暑さが肌に伝わってくるようです。

外の世界のパイプ役となるのは長兄・明で買い物に行ったり、お金を借りに行ったり、また、外での友人を作ったり・・・決して世間から隔絶はしていない・・・街を歩き、コンビニで買い物をし、友人たちを家に招いて遊ぶ・・・なのですが、周りにどんなに人がいても誰も振り向かないというのがなんとも残酷といえば残酷なのですが、子供たちは他人をあてにせず、母が帰ってこないのではないか、と心配しつつも母を信じて前向きに生きる。

母親役のYOUが、子供達に信頼される人柄、ただ育児放棄をした悪者ではなくて、子供達を産み、育てかわいがって信頼されるのが納得するような憎めない微妙なキャラクターを演じている功績は大きいです。

一緒に暮らしていても、憎み合っている親子だっているし、会話がない家族もあるけれど、母親は子供達と同じ目線で話しかけ、子供達も母と一緒にいるとイキイキと楽しそうで、母と約束したことをきちんと守る。だから4人の結束は固いし、とにかく4人で生活を続けたい・・・という気持ちがストレートに伝わってきます。

そして後半に子供達と一緒になる(監督の分身ともいえる)中学生の少女、紗希が『ピストル・オペラ』で銭湯の少女を演じた韓英恵で、最後まで4人に寄り添う静かな影のある役がまた印象的。

子供達だけで生活することは永遠には続かないけれど、ラストのモノレールのシーンでの明と紗希の姿には、悲惨さはなく、ただあるがままの姿。肯定も否定もないあるがままの現実。そういう所を劇的にしないで、逆に抑えた透明感のある映像でむしろファンタジックなシーンになっていました。

誰が悪いとか、何故他の大人は手をさしのべようとしないのか、父親たちはどうなのか・・・といった怒りは感じさせないけれど考えさせる描き方、視線が上手いですね。

是枝監督の映画といのはいつも「責任」という言葉が浮かびます。今回は親という責任、母親代わりになった兄、姉の責任感。責任を果たすということはどういうことか、考えさせられます。

音楽がゴンチチで、ギターとウクレレだけとはいえ、またこの世界にぴったりあった静かで穏やかな音楽を奏でているのもとても効果的です。

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