父、帰る

父、帰る

Vozvrashchenie

2004年9月22日  日比谷 シャンテシネにて

(2003年:ロシア:111分:監督 アンドレイ・ズビャギンツェフ)

家族、知人・・・知っている人だったらそれまでの言動、行動があって、「あの人は優しいから」とか「お父さんは頑固だからねぇ」とかどういう人ということが話せる、わかるのですが、この映画の場合、どんな人か全く知らない人がいきなり兄弟の家に「お父さん、帰ってきてるわよ」と言われてしまうのです。

その「父」という人は12年間の不在について何の説明もなく、言い訳もせずいきなり家長然、父親然とふるまう・・・しかも息子2人と旅に出るといきなり言い出す。誘うというより、命令です。

兄弟の胸の内、複雑・・・なんで帰ってきたのか?予定がすぐ変わる旅行の目的は何か?父は何をいいたいのか?どうすればいいのか?命令ばかりで何故なにも言ってくれないのか?・・・・少ない台詞、限られた登場人物・・・シンプルなのですが、胸の内の葛藤は奥がとても深いです。

だんだん父に従うようになる兄ですが、弟は逆に反抗心をあらわにしていく。その静かな決裂。

弟が一番メインになっているのですが、この弟、イワンを演じたイワン・ドブロヌラヴォフという男の子が素晴らしい。特に憎しみに満ちた目の表情。弟は頑固でへそを曲げたらとことん反抗する、反面母から甘やかされている・・・ですから命令ばかりする「父」は受け入れがたい。戸惑いから憎しみへ・・・そして困惑へ・・・という表情が台詞を言わなくても全身から気持ちが表れているのですね。

また父を演じたコンスタンチン・ラヴロネンコは、子供に媚びない、ひたすらスパルタを貫く、無口だけれどもいざというときに子供にはないサバイバル精神を発揮して無言の内に子供たちを守ると同時に大人の力を示す・・・という存在感が凄い。

監督はこれが初監督だそうですが、銀色に沈んだような落ち着いた美しい映像の数々、またシーンのつなぎ方のスムーズさ、伏線のはり方の上手さ、写真の使い方・・・上手いなぁ~って本当に感心します。

いつも曇り空か雨のような色合いですが、晴れた時の青空に重く広がる雲の重量感とかなぁ~みていてため息がでます。父の目的は?というサスペンス的な要素もあり、余計なことは極力省いているのに実は雄弁という・・・うん、やっぱり上手いですね。

ラスト・シーンが特に美しくて、アンドレイ・タルコフスキーの再来と言われるのもわかるし、テオ・アンゲロプロスの映画のカメラ・ワークのような・・・・そして写真の数々。無邪気に笑う兄弟の姿が切ない。この映画はとても写真的な映画ですね。

どこを切っても映像世界・・・というのは映画の醍醐味のひとつです。

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