レディ・ジョーカー
2004年12月25日 丸の内TOEI①にて
(2004年:日本:121分:監督 平山秀幸)
1984年に起きた「グリコ・森永事件」は、解決を見ず時効を迎え、未だに犯人達は捕まっていない、ということもありますし、当時の事件を覚えてる身としては「とってもヘンな事件」でした。
それをベースにした髙村薫の原作は、何故そんな事件を起こしたのか、犯人達はどうなったのか・・・という「見えない部分」をフィクションとして、不況にあえぐすきまだらけの日本の姿をあぶりだす、という雰囲気を持っています。
部落差別問題、人種差別問題・・・そういったものを背景にしているのでとても印象が重い小説となっていました。
映画はその部分をよく出そうと苦心しています。まぁ、よく映画化したなぁというのが第一の感想。
女性はほとんど重要なパートではなくて、渡哲也他、男優さんの演技合戦というのが第二の感想。
レディ・ジョーカーと名乗る、犯人グループは競馬場で出会った職も様々な人たち。皆、社会の底辺で生きているような「市民」です。
犯人グループが、綿密に計画をたてる、というシーンは省いて、即動き出した計画の中間報告的にまた競馬場に集まる会話を通して何故が浮き彫りにされるし、それぞれバラバラな思惑で動いているあぶなっかしさ、というのも感じますね。
台詞で、「やるなら製造業でしょう。金の重みを知っていますからね」というのは、とても鋭いと思います。色々な仕事で金を儲けるという中で、「物を作って売る」製造業は浮き沈みが激しいし、私自身が製造業での仕事が長かった経験から、説得力ありましたね。
犯人グループ、社長を誘拐されるビール会社、犯人を追う警察・・・どこの世界にも軋轢があって、あえいでいる、そんな所を強調しています。まぁ、どの世界も平等に描こうとつめこみすぎの感はありましたが。ちょっと展開の先を急ごうと流れてしまっているような。
犯人グループは、もっと愉快犯的なのでしょうけれども、映画ではひたすら重い。渡哲也、吉川晃司、大杉蓮、吹越満、加藤晴彦、そして「レディ」・・・その中で唯一、飄々としているヨウちゃんこと加藤晴彦が、軽くて年が一番若いということもあるけれど、世の中を憎んで・・・または、金儲けの下心を持ってといった重い背景を背負っていないのが、一番愉快犯らしい。
警察の國村準がまた、苦渋の刑事で、合田刑事の若さでは補えないものを持っているという演技が良かったですね。
ラストはクリスマス。競馬場ではクリスマス競馬で盛り上がっている、そしてクリスマスケーキを買って・・・というシーンがいいですね。
明るくて楽しい印象のあるクリスマスですが、ケーキを買ってそれでほっとするクリスマス。そんなささやかなクリスマスの描き方がいいと思います。
原作の髙村薫は、スパイ小説の大家、ジョン・ル・カレを大変好んでいる、というのは他の著作を読んでもわかるのですが、事件を描くのではなく、それに動く人物の心理を細かく書込むと言うところ本当に似ています。(つまり、話はなかなか進まない)
だから、起承転結のはっきりした映画にすることはなかなか難しいし、原作を読むには結構、骨がいります。じっくり描き混まれた人物たちの心象風景・・・それは軽く読めるものではないので、原作のあの独特な雰囲気を知ってからこの映画を観た方がいいと思いますね。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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