ブエノスアイレスの夜
Vidas Privadas
2004年12月20日 渋谷シアターイメージフォーラムにて
(2001年:アルゼンチン=スペイン:105分:監督 フィト・パエス)
この映画の背景にあるのはまず、1976年のアルゼンチンの軍事クーデターなんですね。
このクーデターにより反政府的な人々、裕福な人々は迫害され、スペインなどに亡命せざるを得なかった、という事実があるそうです。
映画は現代ですけれども、主人公のカルメンは正にその軍事クーデターの犠牲者で、夫と子供をなくしスペインに亡命した人なんです。
今は、スペインで仕事一筋に生きているようでも、父が危篤という知らせがなければ、アルゼンチンにはもう帰りたくない、と思っているわけです。ましてや、当時の辛さを思い出させるもの(住んでいたアパート)、知り合い(父の主治医)は嫌うというよりもう目にしたくない忌まわしいものなのです。トラウマ、と字幕には出てていましたが、傷はまだ治っていないしもしかしたら一生、目をそむけられないものなのかもしれません。
その傷がカルメンの性的な倒錯・・・という形で語られるのが前半。アルゼンチンではもう裕福な暮らしが戻っていて、年の離れた妹・・・まだ20歳でクーデターの事を知らない若い妹や両親もカルメンを引き留めようとするけれどカルメンの意志は固いのです。
様々な豪邸の中が出てきますが、他にもカルメンの滞在するホテルなど、部屋、というものがとても強調されています。
部屋の中で何をしているのか・・・盗み聞きする、部屋にまつわる思い出、ただの背景でなく部屋の構造がしっかり描かれています。
部屋と部屋の間にある壁というへだたりを描くことで人間の中の壁をも映し出しているかのようです。。
そして性の倒錯を満足させるために若いホスト、グスタホ(ガエル・ガルシア・ベルナル)を雇うけれど、決して顔をあわせようとしない。
となりの部屋で本を朗読させて性的満足を得るだけ、という理解しがたいカルメンにどんどん惹かれてしまうグスタホと運命的な出会いをして少しずつ変わっていく後半。
なんとも重い結果となってしまうのですが、やはり20年前の屈辱的で、悲劇的な体験記憶を消せない、どうしても忘れられない悲しみをカルメンを演じたセシリア・ロスが熱演。時に鉄面のごとき表情、傲慢な態度、厳しい言葉、そしてもろい部分。
グスタホは、どちらかというと最初は、子犬扱いなのですが、だんだん自分の意見を言う、または事実を知って傷つく、そんな繊細さが良かったですね。悪いことはしていないのに、運命に翻弄されてしまってどうしようもなく落ちていく2人。
カルメンの妹、アナも自分なりに悩みがあるのですが、両親や姉のことを思うと言い出せなくて、それを1人内に秘めながらも、鋭い行動をする頭の良さ、過去を知る唯一の人間、主治医のアレハンドロの本当の強さと誠実さ、がだんだんわかってくる、というのが丁寧です。
監督のフィト・パエスはカルメン役のセシリア・ロスの夫であり、映画監督の前はアルゼンチンの国民的作曲家、歌手・・・音楽がたくさん使われているし、カルメンの耳だけに響く金属音や人の声・・・音響をとても重視しているのが納得です。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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