理由
2005年1月19日 新宿武蔵野館にて
(2004年:日本:160分:監督 大林宣彦)
原作の事件にまつわる「証言」を並べて、事件を浮き彫りにする・・・というスタイルをあくまで忠実に映像化したというのは結構大変なことですね。それは、『伝説のワニ・ジェイク』(犬童一心監督)の、色々な人のインタビューを並べる難しさと同じ。
しかも107人ものキャストを揃えた訳ですから、そうそう簡単に出来るものではないです。
特に、事件の起きたマンションの管理人、岸部一徳が、狂言回しのような存在で、普通の人の普通の感覚で、カメラに向かって答え、説明し・・・という所など大変な台詞の量です。やっぱり凄いわ、岸部一徳。
バブル景気の時のマンション騒動・・・を覚えている人ならこの事件のきっかけとなるマンションのあり方っていうのが、よくわかると思います。自分の家を持ちたい、しかもどんどん価格が下がって、それ自体は大金なのに値下がりした、となると何故か「安い買い物」に思えてしまって無理をしてしまって・・・という心理。
そしてそういう風潮に沿って現れた詐欺まがいのやり方。
たくさんの人の証言がひたすら続きますから、淡々としていて、ドキュメンタリータッチ。あまりショッキングなシーンはありません。殺人事件といっても証言者の言葉とその再現だけだから、あまり生々しく迫ってこないのです。
東京下町の風景など細かい所のこだわりもありますが、次々と出てくる俳優さんたちの上手さ、を堪能するのもこの映画の楽しみのひとつ。
原作からしてそうなのですが、犯罪を犯したものをただ悪、と切り捨てるのではなく、その悲しみもちゃんと描くことに気がつかないと、「なんだつまらない」になってしまって損ですね。素人レビューで見てしまった「阿呆な奴が起こした阿呆な事件」という言い方にはハッキリ言って不快感を持ちました。
岸部一徳の管理人としての責任の持ち方、伊藤歩のはかなさ、加瀬亮の不器用なリンゴのむき方、渡辺美佐子の謙虚さ、宮崎あおいの透明感他、永六輔などの出演、これだけのキャラクターを演じさせた力量・・・WOWOWのテレビ放送だけではもったいないですね。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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