イブラヒムおじさんとコーランの花たち
Monsieur Ibrahim et les Fleurs du Coran
2004年1月13日 恵比寿ガーデンシネマにて
(2003年:フランス:95分:監督 フランソワ・デュペイロン)
人物設定はとてもシビアなのに、とても柔らかい空気がずっと続いているような雰囲気です。
パリの裏通り、ブルー通りに住む主人公の13歳のモモは家族から見放され、「捨て子」状態。
街に立つ娼婦たちが母親であり、恋人、そして近所の雑貨屋、トルコ人のイブラヒムだけが長年のつきあいで少年の生活環境を知っていて、父親かわり。・・・・それでもやさぐれない少年モモ・・・。
少年はブタの貯金箱をこわし、娼婦を買いに行く・・・という冒頭から、ちょっとびっくりの展開なのですが、映画はあくまでもソフトにソフトに暖かい視線で描いています。
イブラヒムおじさんは、貧しくて外の世界を知らないモモに色々なことを教えるし、生活を助ける、娼婦たちは自分たちの子供のようにモモをかわいがる。
そしてイブラヒムおじさんと故郷であるトルコへの旅。そして旅の終わり。淡々としています。キツイ状況ではありますけれど、ふわふわ~っとした区切りのつけ方を貫いています。
モモはユダヤ人、イブラヒムおじさんはトルコ人でイスラム教徒。しかし、旅の途中でイブラヒムおじさんは、モモにギリシャ正教の教会を見せ、またカソリックの教会も連れて行き、イスラムのモスクも見せてそれぞれの世界を説明します。
オマー・シャリフ演じるイブラヒムおじさんはモモの全て。恋の悩みも生活のつらさも、イブラヒムおじさんの言葉で説明されると、明るい方へと考えられる。そういう説得力のある人物というのが上手いです。決してモモを甘やかしたり、媚びたりはせずに納得させる力を感じます。
モモは自分を捨てた親を嫌っていますが、旅の途中で「頭がすっきりした。憎しみが全て消えた。」と話すシーンがあります。
それがイブラヒムおじさんがモモに求めていたことのような気がします。
何の為に旅に出て、外の色々な世界を見せるのか、それはモモのブルー通りしか知らない、大人=両親であって大人への不信感しか持てない視野の狭さを広げる、それだけ。モモへ過大な期待をしない、モモにとってはそれで十分なのです。
言葉もわからない、パリとは全く違うトルコの風景の中にぽつんと取り残されるモモの姿。寂しげであるけれども、同時に自由である、という空気が感じられる後半のトルコの風景がこれもソフトで優しい印象を受けますね。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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