ベルリン・フィルと子どもたち

ベルリン・フィルと子どもたち

Rhythm Is It!

2005年1月6日 渋谷 ユーロスペースにて

(2004年:ドイツ:105分:監督 トマス・グルペ、エンリケ・サンチェス・ランチ)

大人がどんなに子供に勉強させようとしても、その子にやる気がなければ、勉強なんてしなくても結局生きていけるんだからと開き直ってしまっていては、笛吹けど、踊らず、という今に限らない学校の問題があると思います。

結局、大人になっても「別になくても(しなくても)いいんだから、楽で楽しければそれでいい」という開き直りで、ふんぞりかえっている人々が多いな、と思っている私としては、このドキュメンタリー映画とても興味深く観ました。

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者で、芸術監督のサー・サイモン・ラトルが考えた教育プロジェクト、それはベルリン・フィルとドイツに住む様々な年齢、国籍の子どもたち250人で、ストラヴィンスキーの『春の祭典』のパフォーマンスを行うというもの。

映画は、ある10年制のクラスをメインに追っていきます。

どちらかというと貧しくて、国籍も色々、アフリカ難民の生徒などが多い学校で、生徒たちは「教育プロジェクト」なんて全く興味がない。ダンス・ユナイテッドの振り付け師、ロイストン・マルデュームが、指導に行く訳ですが、厳しくすれば、反抗する、優しくすればつけあがる子ども達との根気合戦。

それでもロイストン・マルデュームは、「子どもたちが、じっとしていられない、集中できない、人の話が聞けないのは自分に自信がないからだ」と話します。

また、18歳~の別のクラスの様子も出てきます。マルティンという19歳の青年は、人と接触出来ない、握手も出来ない、孤立した青年。それが、群舞という集団行動に身を置くことで、少しは変わるのではないか、と思うと語ります。

そして10年制学校の、平凡なやる気のない少女マリーという子も出てきますが、少したってマルティンたち、年長者たちのクラスに参加してみて、自分たちとの違いを目の当たりにして当惑する。

マルティンもマリーもこのプロジェクトで劇的な変化を体感することはないのですが、個別のレッスンから、ベルリン・フィルというプロの芸術家の練習に参加して、自分達が何をしなければならないのか・・・そして本番、と本物に出会ってだんだんなにかに気づく・・・そこで止めているのがこの映画のいいところですね。

実際の本番の様子は別の映画となっていて、この映画では、10分弱しか成果は見せませんし、その後子どもたちがどうなったかまでは追いません。これはきっと何年もしてから、このプロジェクトの意味が出てくるのでしょうし、それも個人差があるのでしょう。

勉強も芸術も映画も、別になくても「生きていける」ものなんです。

それでも、サイモン・ラトルは、「芸術は生活の必需品」と言い切ります。

「ストラヴィンスキーなんて全然クールじゃない」と言っていた子どももいますが、本物の演奏とリズムを共感して踊って初めてわかる・・・そういう「きっかけ」があったことは羨ましいことですし、大人だったら自分で「きっかけ」に気がつかなければならないものなのでは?

音楽、ダンスに限らず、志の高さ持つ意識を伝えること、感性というものの大事さ、そしてそれは楽に身に付くものではない、それがこのドキュメンタリーの視線です。

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