約三十の嘘

約三十の嘘

2005年1月6日  渋谷 シネクイントにて

(2004年:日本:100分:監督 大谷健太郎)

大谷健太郎監督の初監督作品『アベック・モン・マリ』を観たときにとても驚いたのは、映画という手法では映像で語る部分がほとんどなのに、映像に頼ることなく人物の会話、これに的をしぼっているストイックさだったのです。

また、夫婦、カップルなど「2人一組」へのこだわり。

そして次作『とらばいゆ』でますますその会話劇が作れる技量というものに感心しました。登場人物達が演技達者、というよりも「人間を達者に描く、撮る」ということが群を抜いて上手い。それでいてインテリアやファッションなどがとても洗練されている精密さ。

その点でもう、舞台的だなぁ、と思っていたのですが、今回は今までのオリジナル脚本から離れてずばり土田英生の舞台劇を原作に映画化ってだけで、もうわくわくものです。

トワイライトエクスプレスという高級寝台超特急の往路と復路の車内のみ、というますますストイックな設定の中で、まず目についたのはインテリア。しゃれたストライプの椅子にあわせたストライプのコーヒーカップ、6人のファッション、粋、胡散臭い、固い、ルーズ・・・とキャラクターに合わせた細かいこだわり。

それから、人物配置。ここも演劇的だなぁ、と思わせる、人物配置ですよね。

最初新参者の横山(八嶋智人)が、過去チームを組んだ4人の会話に入れなくて「だってこの配置じゃ、僕、会話に入れないでしょう!」とはっきり座る位置に文句を言って、自分の地位を誇示しようとする、といったさりげないシーンや会話に気がつかないとこの映画楽しくないですね。

今は落ちぶれたとはいえ、元リーダーの志方(椎名桔平)の座る位置は一番奥。今回のリーダーです、と張り切る久津内(田辺誠一)は、言葉とは裏腹にはじっこ。負けん気強い坊や、佐々木(妻夫木聡)は、一匹狼気取りで、ちょっと離れた所にいる。

嘘が商売の詐欺師たちの中で1人、仲間を信じよう、昔のように出来るはずだ、と信じたい宝田(中谷美紀)は、いつも入り口近くに陣取る。そして過去、仲間を裏切った?可能性のある今井(伴杏里)は、その間に浮遊している感じ。

往路で話される詐欺が見事に成功して、復路でトランクにつめた現金をめぐってここで、「2人一組」のこだわりが出てきます。

誰かが、誰かと組んで、トランクを持って途中下車してしまえば、それで出し抜き成功。さて、このチーム、チームとはいえ、信じ合っていませんから、疑心暗鬼の会話劇の始まりです。

今井役の伴杏里は、他の5人と違って会話劇には入ってこないのですね。最初はなんだか台詞棒読みのただのかわいい手品が出来る女の子だけ、なんですが、この下手な会話がまた胡散臭くなってきます。誰が誰と組んで出し抜くのか。

そういう会話を通して、過去との決別のつけ方、人への信頼の置き方、そして見事出し抜いた者は、即チームの「仲間はずれ」になるんだよ・・・という人間ドラマになっています。信頼ばっちりのシンプルでわかりやすいチームワークものには、していないですね。

ゴンゾウというパンダもどきの着ぐるみが、公開前の宣伝ではよく出てきたのですが、こういうキャラクターを遊ばせるストレート球なんて大谷健太郎監督、投げないでしょうね・・・と思った通り、ゴンゾウは映画の中ではほとんど出てきません。

映画撮影の際、せめてゴンゾウが踊るシーンでも入れたら?という提案をあえて監督は排除したそうです。

問題は、ゴンゾウのキャラクターではなく、詐欺の時、「誰がゴンゾウに入るのか」ということなんです。ゴンゾウに入る、ということは、役割分担決めた中で、一番役に立たない詐欺師が、結果として入ることになるからですね。

ゴンゾウは、詐欺師として認められないもののシンボルだったわけ。誰もゴンゾウには入りたくない、という気持ちを持っている。

誰もゴンゾウにはなりたくない・・・・でも誰かが入らなければならないのがチームってものですよ、という皮肉。

これは会話の中で、誰がゴンゾウに入る、入ったか・・・という形で語られるだけです。そういう変化球的な監督の意図にニヤリと笑えるのも前2作と同じです。

役者はそれぞれ、キャラクターよく出していて、頑固一徹きつい女、宝田の中谷美紀もよかったし、情けないのがぴったりはまる田辺誠一、いきがってるだけの若者代表、二段ベッドだったら絶対上に行くっていうタイプの妻夫木聡、のど飴ないんだよねぇ~ってやる気あるんだかよくわからない椎名桔平、胡散臭さ爆裂の八嶋智人(ババロアちゃ~ん、ミルキィちゃ~んとあだ名を付けるセンスの悪さが笑える)、この5人の会話のやりとりのタイミングはいいですね。そこに台詞棒読みなんだか、嘘ついてるんだか、よくわからない女の子、浮遊している伴杏里。

日本映画にはめずらしいタイプの会話劇が得意な大谷健太郎監督って、基本的には人を騙すより信じ切っているタイプの人、なんじゃないでしょうか。そんな明るい印象が残る映画です。

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