幻の光

幻の光

2005年2月11日 ビデオにて

(1995年:日本:110分:監督 是枝裕和)

『誰も知らない』『DISTANCE』『ワンダフルライフ』の是枝監督の劇場映画初監督作品をやっと観ることができました。

原作は宮本輝の同名小説。

是枝監督の映画に共通するのは「残されてしまった者の悲しみとその後の道」なのだと思うのですが、この初監督作品ですでにその世界は確立されていました。

生まれて三ヶ月の子供を残して謎の自殺を遂げた夫(浅野忠信)。妻のゆみ子(江角マキコ)は大阪を離れ、金沢の男性(内藤剛志)と再婚します。

先妻の子もいて、狭い町だけれども静かな海辺の家での生活。しかしどうしてもゆみ子は、夫が自殺した理由がわからない、納得いかない・・・そんな気持ちを秘めながらも穏やかに生活は続いていく。

という訳で、最初に子供時代のゆみ子が祖母が失踪するのを止められなかった、というエピソードが語られてから、静かな生活の中に潜む孤独と喪失感がとても綺麗なんですね。

再婚した夫は優しい、舅(柄本明)も自分と子供を受け入れてくれている・・・なのにそれを手放しに受け止められない自分がいる・・・という女性を江角マキコが好演していました。

映像も手持ちカメラは使わず、固定したきっちりとした構図の中で、静かに暮らす生活をじっくり追っています。

劇的な事は前夫の自殺くらいしかないのですが、後半の金沢の海辺の家は窓からすぐに海が見える古い家。

江角マキコが丁寧に階段の雑巾がけをするシーンの美しさですね。これが日本の美なんじゃないか、と。

海辺でやっと胸の内を夫に話すゆみ子ですが、夫は誰にでも誘い込まれるような光があるのだろう・・・と優しく言い聞かせます。

そんな幻の光は誰にでもあるのだろうし、それはその人、その瞬間しか見えない何か、なのですね。

とても静かで丁寧で優しく切ないいい映画です。

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