大統領の理髪師
考子洞理髪師
2005年2月9日 銀座ガスホールにて(試写会)
(2004年:韓国:116分:監督イム・チャンサン)
2004年の東京国際映画祭でコンペ部門監督賞と観客賞を受賞。
このことについて母親役を演じたムン・ソリさんが、インタビューで「観客賞は意外でした。なぜなら韓国の60~70年代の歴史を知らない人にこの映画の良さが伝わるかどうか疑問でしたから」といった事を話されています。
確かに背景となるのは韓国の政治的な激動です。20年間に渡る軍事政権。しかも主人公の理髪師、ソン・ハンモ(ソン・ガンホ)父さんは大統領の理髪師になってしまうのです。
小心者の私は、ちょっとしたことでも「わぁぁぁぁ」とか「ぎょっ」とか驚いたり、どきっとしたりの連続で、でも家の猫の頭を意味なくぽかぽか叩いたりします。
この映画はそんな「わぁぁぁぁぁ」とか「んも~~ぽかぽか!」という気持ちと日常を本当によく描いているので、環境は違っても共感する部分はたくさんありました。
子供が出来て姓名判断で「金持ちになって成功するけれど、長生きしない名前」と「金はたまらないけれど長生きする名前」どっちがいいか?と聞かれて「・・・・・金持ちで長生きする名前はないんですか?」というお父さん。そんな言葉にもお父さんのお人柄が出ています。
俳優さんがまたいいのですね。小心者のお父さん、ソン・ガンホ。気の強いお母さん、ムン・ソリ。「出てけ~~~~」と言われて出て行くのはお父さんです。映画の語り手である息子は『殺人の追憶』のファースト・シーンの出てきた少年、イ・ジェウン。
随所に、ブラックなユーモアがはさまれているのも上手いところですね。北朝鮮のスパイがらみで下痢症状が出た人は「マルクス病」でスパイだ、という流言飛語が飛び交う中、息子が「下痢になっちゃった・・・」そのあとの顛末なんてブラックで怖いことなんですけれどさらりとしたユーモアで描いてしまっています。
そしてお父さんは無学で小心者でもたまたま大統領の官邸がある町に住んでいるので、大統領専属の理髪師に指名されてしまう。もう、お父さんドキドキ。
政治に遠い所にいる庶民が20年間も政治の中心の人の側に居続ける。それはお父さんが誠実でなにが起きても、自分を出さずめまぐるしく変わる政治の場にいても、何も変わらない、不変さという強さを持っているからです。
いつもペコペコしてプライドないのかと言われ、豆腐一丁(ハンモ)と子供がはやし立てられても、心の中で笑ってやれ、相手にするな、と言えるお父さんの強さ、何かあったときは粘り強くあきらめない強さ。
そんな「外には見えない強さ」をとても上手く描き出しているのがこの映画のいいところなんですね。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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