失われた龍の系譜~トレース・オブ・ドラゴン~
Traces of a Dragon:Jackie Chan and his Lost Family
2005年3月8日 新宿武蔵野館にて
(2003年:中国(香港):96分:監督 メイベル・チャン)
これはジャッキー・チェンの両親の中国時代のドキュメンタリーですが、あくまでプライベート・フィルムで実は香港でも中国でも公開されていないそうです。
観てみるとかなり衝撃的な現代中国史ドキュメンタリーになっていて公開出来ないというのはよくわかります。
監督のメイベル・チャンは、『宋家の三姉妹』を撮った監督でもありますが、現代中国、香港の歴史にとても興味があるのでしょうね。そして女性監督らしい「女性の立場からの目」というのもしっかり入っています。
ジャッキー・チェンの父も母も子供を連れた再婚同士だったということはジャッキー・チェンも知っているのですが、詳しいこと、語られなかったことを父が話す・・・という父と子の対話ドキュメンタリーでもあります。
ジャッキーの父も母も日中戦争中は南京にいて日本人による大虐殺を目撃して上海へ逃げる・・・中国では国内戦争が起きて共産党が勝利、文化大革命に巻き込まれる・・・そんな中で中国中を逃げ回り、名前を変え、子供を置いて命からがら香港へ逃げて、父母が出会うのです。
そして生まれた一人っ子がジャッキーというわけ。
それだけでも十分波瀾万丈なのに~この両親、アメリカ大使館に勤めて、その後、芸術学院に入ったジャッキーを残して、オーストラリアに渡ってしまうのです。ジャッキーは10年間香港でいわば寮生活していたわけですね。
父の息子2人は中国で革命に巻き込まれて行方不明、母の2人の娘は中国と香港に離ればなれ。そして父が行方不明だった2人の息子と中国で30年ぶりに再会というドラマつき。
ジャッキーは、もちろん大スターですから実は父は話していない部分たくさんあると思います。話していないというより、今だに話せない部分、もうばらばらになってしまった家族は、全ては元通りにはならないという現実。実際ジャッキーは異母兄弟に会うことはありません。そういった所が「公開できない」理由でしょう。
様々な職について、マフィアから国民党のスパイになり、香港で(米もといだことがないのに)料理人という父も凄いが、それにいつもついていった母というのが凄いですね。母、チェン・ユーロンは介護を受ける身でもう話すことは出来ない。一生話さなかったというその筋金入りの気の強さったら。
ジャッキーが身内のパーティでカラオケを歌って、その後「お母さんに何か歌おうか?」と言うと「もう歌は聞いた。」とずばっと返すお母さん凄い。お母さん、上海時代は「三姐」と呼ばれた女傑の1人だったそうです・・・強い人というのは口が固いのですね。べらべら愚痴や弱音吐くようだったら、お母さん、とっくに死んでいますよ。
お父さん、チェン・ジーピンは胡散臭くもあるのですが、世の中の荒波をくぐって、くぐって生き延びたという強さと同時に「周りから愛される愛嬌」というのがたっぷりあって、これ、イコール、ジャッキー・チェンの魅力でしょう。
家族の結束か、生き延びるか、という選択を迫られる宿命に立たされた中国人の歴史でもありますし、ジャッキーが本当に家族を大事にしてはいるけれども、「血は水よりも濃いとは思わない。自分にとっては、(芸術学院で一緒だった)サモ・ハン・キンポーやユン・ピョウの方が家族に思える」という言葉、結構重いものがありましたね。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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