海を飛ぶ夢
Mar Adentro(The Sea Inside)
2005年4月27日 日比谷シャンテシネにて
(2004年:スペイン=フランス:125分:監督 アレハンドロ・アメナーバル)
とても難しいことの数々をクリアしています。
2004年のスペインの映画賞、ゴヤ賞14部門受賞、その他、アメリカ、ゴールデン・グローブ賞、アカデミー賞外国語映画賞、ベネチア映画祭3部門受賞・・・という冠がたくさんある映画です。
しかし、この映画の素晴らしさを「ストーリー」だけで書いてしまって、折角の映画の良さを全然伝えることが出来ないのではないか、という不安があって、この映画の詳しいストーリーは書きません。
テーマ、題材がスペインの実話を元にしているというある身体障がい者の「尊厳死」を扱っていますが、「死」をめぐる設定でも実は、「生きる」ことをこれだけ流麗に描いた映画はないのではないかと思います。
そして「死にたいのに死ねない」という葛藤を、周りの人物を上手く描いて、人間の生きる意味の定義や、言葉だけでは人間納得しない、という「言葉の無力」も深く描いています。また、言葉によって人々が傷つく、その言葉の持つ繊細な怖さも。
主人公、ラモンは50代の男性ですが、実際は30代のハビエル・バルデムが、特殊メイクをして50代を演じているというアイディアが巧みです。
ラモンという人物は、ユーモアと頑固さと知性を持ち合わせた大変魅力的な人物で、カリスマ的な人気があり、実際、彼を慕う女性は映画よりたくさんいたのだそうです。
そういう「魅力」というのは、若々しさであり、議論できる知性であり、老成した包容力であり、ユーモアをもてる寛大さであり、自分を曲げない頑固とも言える自信・・・「若さ」だけではダメ、老いてしまっていてもダメ、という年齢に関係ない魅力を寝たきりという設定ながら表現することの難しさもクリアしています。
とても顔のアップの多い映画なのですが、そんなアップにも充分耐えうる俳優を揃えているという高度なキャスティングの技。
ラモンの周囲の人々の描き方は、実際のラモンを取り囲んだ人々の色々な面を抽出して、登場人物達を再構成している、という脚色力。
特に、ラモンの所に押しかけてくる女性で自分が救われたいために、ラモンの世話をしたいという自分勝手な女性、ロサがラモンによって、成長して、変わっていく課程や、また、甥っ子のハビエルはまだまだ若くて、死というものの実感はない、ちょっと鈍い10代の男の子の描き方がとても素朴ながら説得力があります。
ハビエルはラモンとの会話や生活ですぐに成長しないのですが、将来的はきっと人の痛みのわかる大人になるだろう、と思わせる全部描かない省略の仕方の上手さ。
そして素晴らしい撮影。ラモンのベッドのある部屋の窓を飛び出して、ラモンの夢は空を飛ぶ。その映像は息をのむような、流麗な美しさです。
また、海、というものが象徴するたくさんの事。船員として海で働いていたラモンですが、体の自由を奪ったのは海での事故。そして寝たきりの部屋から、現実逃避としての「海」が見える。しかし、海を飛ぶ夢は、現実からの逃避だけではないような気がします。
そして、強烈な印象を持たせる女性弁護士、フリアの存在が、さらに深みを増しています。
見終った後、感動もあるのですが、難しい題材を扱った内容にかかわらず、清々しく、爽やかな気持ちになる、とても深い美しい映画でした。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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