コースト・ガード

コースト・ガード

The Coast Guard

2005年4月20日 新宿シネマスクエアとうきゅうにて(韓流シネマフェスティバル)

(2002年:韓国:96分:監督 キム・ギドク)

海兵隊での体験は本当につらくて苦しみぬきました。果たして自分が意味のある存在なのか自問自答し続けましたが、隊の内部では命令への服従が絶対条件でした。除隊した後も恐怖が甦ってきて、夢の中でも殴られていて苦しい思いが残り、私をウィルスのように蝕みました。

キム・ギドク監督は厳しい。とても厳しい映画を作るけれど、まず何よりも自分に厳しい人だと思います。

小学校しか出ていなくて、働き、そして海兵隊に入る・・・という監督自身の体験が、一番この映画に出ていると思います。

これ全編、北朝鮮に接する湾岸警備隊の中のシーン。厳しい軍隊の訓練、演習、夜の湾岸警備・・・ほとんどの者が、早く除隊になりたい、そんな中で、カン上等兵(チャン・ドンゴン)だけは、軍にしか居場所のない人間。外の世界には順応できない人間で、もう最初から狂気じみています。

下の者を容赦なくボクシングできたえてボコボコにする所があるのですが、有刺鉄線をはったリングが、浅い海の中にあって、足元を水にとられながら、ばしばしやる・・・とても不思議な設定ですが、カン上等兵の狂気を美しく見せているシーン。

湾岸ではスパイの上陸を防ぐ為、夜間に湾岸立ち入り禁止地区に入ったものは、スパイとみなし、容赦なく射殺してもいい。海辺でたむろする若者がふざけて夜、立ち入り禁止地区に入った為、カン上等兵は何の迷いもなく発砲・・・なのですが、ちょっとやりすぎといっていいくらいの射撃ぶり。

しかし、スパイではなく民間人を撃ったということで、避難をあびるけれど、軍の中ではスパイを撃退したと表彰。

恋人をカン上等兵に撃たれて殺された女性が、どんどん狂気に走っていき、湾岸警備隊にまとわりつくようになる。カン上等兵は、自分の中で果たして、表彰に価することをしたのか、疑問が煮詰まり、狂気となる。

もう、兵士として銃を持たせられないと、無理矢理除隊させられても、まとわりつき、ひとり軍隊を始めて暴走がはじまる。

という風に2人の狂気がクロスすることなく平行して、描かれる狂気映画。

狂気に走った女は、色とりどりの旗がひらめく杭の立つ浅瀬をさまよう。緑の草原の中をさまよう。そして湾岸警備隊の兵士たちを誘惑する。カン上等兵が目をつぶろうとしても、いつもいつもその女の狂った姿が目の隅に入ってしまう、という映像の作り方。

映像がグレーがかった色で統一している中に時々あらわれる鮮やかな色。硬質な映像に美しい色。そして最初から狂気じみて、目がどんどん血走っていくチャン・ドンゴンの体を張った演技。もう、最初から最後まで狂気の役・・・チャン・ドンゴン自ら、キム・ギドク監督映画に出演したいと申し出て実現したキャストですが、もう、体つきから何から見事になりきっていて、甘いスターの姿などかけらもありません。

キム・ギドク監督は、罪と贖罪というものをずっと描いていますけれど、この映画の罪の意識とその結果というのは比較的わかりやすいものになっています。監督としては7作目にあたり、その後一作ごとに映像感性を鋭くさせていることに感心している私は、とても興味深く観ました。

0コメント

  • 1000 / 1000

更夜飯店

過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。