ウィスキー

ウィスキー

Whisky

2005年4月19日 科学技術館サイエンスホールにて(試写会)

(2004年:ウルグアイ:94分:監督 ファン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール)

チーズ、キムチ、ウィスキー。

この3つの言葉の共通点は写真を撮るときに「笑う」為に言う言葉。

日本では、はい、チーズ、韓国では、キ~ム~チ・・・そしてブラジルとアルゼンチンの間にはさまれたウルグアイでは、ウィスキー。

主人公の小さな靴下工場の社長、ハコボは独身中年男、無口で表情がなくて、愛想もない。言葉は意志を伝達するためで、会話を楽しむことなどない人物。そんな社長の元で働いているのが、やはり中年独身女性のマルタ。ハコボ社長の下で働いているだけあって、無駄口はたたかないけれど、ちょっとしたしっかりもの。

そんなハコボの弟がアルゼンチンからやってきた・・・明るくて軽口をたたくエルマン・・・ハコボはマルタにエルマンが滞在する間だけ夫婦の真似をして欲しいということから、3人のぎくしゃくした共同生活が始まるのです。

しかし、何故、ハコボは弟のエルマンにわざわざ結婚している、と嘘をつかなければならないのか・・・そこははっきりとは言わないのですが、だんだんハコボのエルマンに対する「兄としての対抗心、見栄」のようなものが、無表情なやりとりを通してあぶり出てきます。

もう、ハコボの生活は判を押したような決まり切った事の連続。朝、会社のシャッターを開けて、機械を動かし、仕事する・・・そんなシーンの繰り返しに、毎日、同じ時間の電車に乗って、決められた仕事をこなして、また家に帰る・・・普通の生活というのはそんなに波乱に富んだものではないのだよ、、、という大人のあきらめがわかります。何も起きない事が平穏無事なのだと。

しかし、マルタと疑似夫婦になって、エルマンと3人でちょっとした旅行に行こうよ・・・と持ちかけられてしぶしぶ海沿いの(一応)観光地に行く3人。その観光地がなんだか、寂れていて娯楽といっても日本の昔のゲームセンターとプールとカジノがあるくらい。

レストランでは、ぽつぽつとしかいない客、ステージでは子供がへたくそなカラオケで歌を歌っているのを、無言でながめる3人の絵って、無口で饒舌です。3人の表情がなんとも情けないような、憮然としているような、楽しんでいるような・・・。

ハコボは決して笑わないけれど、写真を撮るときだけ「ウィスキー」と言って「笑う」その一瞬の笑顔ってとても素敵なんですけれど、またむすっとした表情になってしまう。その憮然とした表情、ただずまいがなんともユーモラスになってくるから不思議。

マルタも無表情なのだけれども、エルマンとだんだんうち解けてくると、言葉を逆さに言うことが上手かったり、気を使ったり、そして旅行が終わって帰りのタクシーで見せる横顔の変化。この人、上手いなぁ。なんともいえない味が出ています。

面白可笑しいものを楽しく見せるのではなく、な~んにもないつまらないところにユーモアを見いだす、この2人の監督がまだ30歳という若さというのが驚きです。

しかし映画は突然終ります。ラストはどうなったのか・・・それは観る側にゆだねられます。ハコボとマルタの行動に何故、は描かれません。

私は私なりにその後のハコボとマルタの物語を考えたのですけれど・・・きっとウィスキーな事になったのだろうなぁ、と。

2004年東京国際映画祭、グランプリ、主演女優賞とカンヌ映画祭、オリジナル視点賞、国際批評家連盟賞を受賞。

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