フェーンチャン/ぼくの恋人
Fan Chan
2005年4月6日 日比谷シャンテシネにて
(2003年:タイ:111分:監督 コムグリッド・ドゥリーウィモン他5名)
タイの人の本名はとても長い。
だから大体は短くニックネームで呼び合います。この監督たち6人も例えば、コムグリッド・ドゥリーウィモンは「エス」といった具合に。
大人になって社会人になっても、ニックネームで通してしまうのがタイの常識なんです。
この映画に出てくる子供たち、ジアップ、ノイナー、ジャック・・・というのはもちろんニックネーム。
この映画の背景には『アタック・ナンバーハーフ』があるそうです。この映画が成功して、監督他が映画会社を設立して、今度はプロデューサーになって若い様々な仕事をしていた、チュラロンコーン大学(タイで一番の大学)の後輩たちに映画を作らせたそうです。
監督たちは3人が1973年生まれ、他もほとんど同年代の6人。それぞれが、脚本、撮影、演技指導、編集、キャスティング・・・という役割分担をしながら作ったそうで・・・監督というより、スタッフだわなぁ。但し、何かを決める時は、6人全員の賛成がなければならないということで、一人の監督が決断するよりもある意味大変だったでしょう。若い人にありがちの新しい事を暴走させたひとりよがりが全くないのが、めずらしいというか、気持ちいいというか、納得というか。
ジアップという12歳の少年を中心に物語は進みますが、何よりも大事にしているのは80年代=監督たちの子供時代を再現させること。
遊び、流行歌、学校の行事・・・そして女の子と男の子の領分というものがしっかり描かれています。
ゴムひとつとっても女の子たちはゴム跳び、男の子たちはバオゴップ(ゴム輪を吹いて先に上に重ねたものがそのゴムをとる遊び)と分れています。しかし、ジアップは、隣の家の幼なじみの少女、ノイナーにひきずられている感じで、女の子の遊びにいつも参加、男の子軍団には入れてもらえない。
女の子の遊びは他には、ままごと。これが愛人が出てきて正妻といがみあうところまでやっているところが凄いのですが、やっぱり疑似家族的であり、男の子たちはサッカーや裸になって橋から川に飛びこんだり・・・と行動的。12歳の男の子ジアップとしては、どちらがやりたいか、といえば後者でしょう。ジアップはゴム跳びではゴムを持つ役、ままごとでは、お父さん役くらいしかやらせてもらえないのです。
ジアップは自転車で車の多い大通りをひとりで渡ってはいけない、きつく言われているけれど、最初は事故を目の当たりにして、引き返すが、いろいろある内にさっさと渡っています。そんな描き方ひとつとっても、子供が成長していく事を実によく観察して、再現しています。
それが、重なって、かわいらしくもあり、共感もあり、驚きもありといった雰囲気を出しています。
話自体はそんなに凝ったものではないのですが、とにかくこの雰囲気がとても気持ちいいのです。のどかな風景、のどかな生活、人々。
男の子たちは群れて、ジアップを仲間にしませんが、ただの悪ガキではなくて、それぞれ個性がきちんとあるのがいいですし、その描き方もとてもかわいらしい。
また、学校の行事で、女の子達はダンスを踊るけれど、ジアップは母に言われて、バラの花をノイナーに渡します。
そのシーンは、事前に子供たちには話さず、いきなりこうやって・・・と指示して撮ったそうで、お互い戸惑う様子、ノイナーは見事に踊りを間違える・・・のが、妙にリアルだなぁ、と思ったら・・・なるほどでした。
ほとんどが青年になったジアップのナレーションで進みますが、このユーモア感覚というのは『タッチ・オブ・スパイス』に似ていて、なんとも微笑ましい。それは大人が昔を振り返る時の郷愁なんです。
パンフレットに、撮影風景の写真が載っています。川から男の子たちが飛び込むところ。男の子と一緒に監督の一人が前を隠してポーズっていう風景がまた・・・なんともかわいらしくてとても好きです。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
0コメント