天上草原
Heavenly Glassland
2005年4月6日 東京都写真美術館ホールにて
(2002年:中国:113分:監督 サイフ(塞夫)、マイリース(麦麗絲)
モンゴルというと、広大な草原で遊牧民がゲルという家で移動しながら暮らす・・・というイメージですし、この映画もそういった人々や風景が出てくるのですが、実際、このモンゴルらしい風景というのは近年とても少なくなってきているそうです。
そういう現代風・・・なところは、登場人物の人間関係に出ています。
家族というより、ひとつのゲルに集まった人々であって、きちんとした家族ではありません。
妻、バルマと夫、シェリガンは、シェリガンが暴行で刑務所に入った為離婚しています。
バルマは、シェリガンの弟、テングリと一緒にどうにか放牧の暮らしをしています。
そこへ、刑務所仲間の子供、虎子(フーズ)を連れたシェリガンが刑期を終えて戻ってくる。
もと夫婦、義理の弟、他人の子供・・・家族という絆は実はありません。
フーズは原因は明記されないけれど、心を閉ざし口をきかなくなってしゃべることはなく、とにかく脱走ばかり繰り返す。
そこでシェリガンはフーズの足を「モンゴル結び」という結び方で縛っています。モンゴル結びは、ゆるいように見えてほどけない独特の結び方です。
この人々が、ゆるくてほどけないモンゴル結びで結ばれてしまった人々。フーズが逃げようとしても、広大な草原ばかりで逃げ場などないし、バルマとシェリガンは離婚していても同じゲルの中で気まずく顔をあわせながら生活し、それを複雑な思いで見ているテングリ。
実の息子ではないフーズをとにかく可愛がるバルマとテングリ。父のように厳しくしようとするシェリガン。
フーズはモンゴルの草原の春夏秋冬を経験する内に、動物に慣れ、馬に乗り、心を開くようになります。初めて発する言葉が意外なひとこと、なのですが、フーズ役の男の子の口をとんがらせた顔がいい。
また、慈愛に満ちているけれども、元妻としてとても複雑な心境のバルマ(ナーレンホア)の表情がとても豊かでいいですね。
黙々とただ働く母、妻ではなく、複雑な思いを秘めながら生活している様子がとてもきちんと描かれています。
冬の雪に囲まれた草原で、1人花火をするフーズ、テングリの見事な乗馬、突然やってくる新郎新婦・・・そしてモンゴルの祭り・・・とモンゴルならではの美しい風景を見せながらも、それぞれの自立というものを描いています。
私は、ゲルにいつもいる赤茶と黒の犬が好きです(ショウガ色の眉毛がある)。何するという訳ではないのですが、家族の一員です、という風情がとてもいいです。ぷらぷらしているだけなんですけどね。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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