甘い人生

甘い人生

A Bittersweet Life

2005年5月24日 キネカ大森にて

(2005年:韓国:120分:監督 キム・ウジン)

私は、主役のイ・ビョンホンよりも、監督が『箪笥』のキム・ウジン監督だ、ということでこの映画を観ることにしたのです。

キム・ウジン監督は一作ごとに独自の映像世界を確立していくようです。

この厳しいまでの完璧主義が、この監督の特徴かと。

初監督作品『クワイエット・ファミリー』から最新作であるこの『甘い人生』まで、通して観るとそれがよくわかります。

『箪笥』では、2人の少女に起きる恐怖の体験を描きましたが、今回は、「カッコイイ、美しい男、ストイックに美しく掟の世界に身を置く男達の、修正不可能な選択」をモチーフにしたとのことで、前回のホラー色はなく、全編、ストイックだけれども激しいフィルム・ノワールになっています。

そこで、主役に抜擢されたのが、イ・ビョンホンという訳で、この映画、とにかくかつてのフランス映画のアラン・ドロンを彷彿させる黒のスーツに白いシャツで、肩で風を切って歩くイ・ビョンホン、歩くポートレイト状態。

話はいたってシンプルで、それまでボスの右腕として頂点を極めた男が、ボスの愛人の見張りを頼まれ、その女性に心惹かれるものを感じ、ボスを裏切る結果となり破滅の道へ落ちていくというもの。特にめずらしい話ではありませんし、その女性に夢中になってしまう、ということはない。

まぁ、ボスの愛人といえば、悪女、ファム・ファタール的な誘惑とかありそうなのですが、この映画のシン・ミナは、クラッシックのチェリストであり、外見も清楚で派手な所はない普通のお嬢さん、というものです。

冒頭、柳の枝が風にゆれているモノクロのシーンが、カラーになって・・・・今、マネージャーを勤めるホテルラウンジでのイ・ビョンホンに切り替わる・・・と言うところからして、もう、映像世界。

イ・ビョンホンをゆっくりとなめらかに動いて追うカメラ・ワークの素晴らしさ、基本的には下から光があたるような工夫がされている照明、イ・ビョンホンが愛人(シン・ミナ)の家の玄関を飛び越える一瞬のカメラ・ワークの素晴らしさと独創性、本当に一瞬ですけど、観ている私は心臓わしずかみ!にされたような衝撃を受けました。

そしてイ・ビョンホンの車が去った後の雨に濡れた車道に映る信号の光、一人で眠るとき、枕元の室内灯をつけたり、消したりして点滅させて心象を描くのと同時に、時間を上手く飛ばした使い方をしているところなんて、もう瞳の快楽。

だんだん、周りから追われて、孤立していき、壮絶な戦いがあるのですが、このシーンも、残酷ではありますが、もの凄く映像、カメラワーク、照明、凝っていますね。

雨が降る中で、生き埋めにされそうになるときの雨の美しさ。

拷問シーンや最後の銃撃戦の容赦ない描写が、残酷で観られない、ととるか、美学、ととるかでこの映画が楽しめるかの分かれ目かと。

一匹狼的なヒーローは格好良いのですが、不便な所も出てきます。銃を調達しようと武器商人と接触するときは、組織の人間だ、と嘘をつかなければならないスリリングさ。前半は銃は出てこないのですが、その分、後半の銃撃戦はすさまじいものがあります。

イ・ビョンホンの「この映画は私の代表作になる」というのがキャッチ・コピーですけれど、実際はあまりにハードな撮影に「監督は自分を殺す気だ。これが自分の遺作になる」と言ったのが、代表作となってしまったそうです。

しかし、こんなに格好良く、ストイックに、撮ってもらえたならば、役者としてこんなに素晴らしい役者冥利につきることはないのではないかと思います。

アクションシーンも、キレがよく、とことんアクションのキレがよく強いイ・ビョンホンであり、もう幻想的です。

監督の映画は、いつも家族の掟にしばられているもの・・・を描いていると思うのですが、今回は家族といっても、黒社会の組織・・・ボス、兄貴といった疑似家族の厳しい掟の中で、選択が許されないもののやるせなさ、目一杯出ています。

人気俳優が全面に出てしまう映画は、「映画としての出来の良さ」は二の次になってしまうかもしれませんが、私は映画としての出来の良さを一番重視していて、そういう意味では満足度の非常に高い映画でした。

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