やさしくキスをして

やさしくキスをして

Ae Fond Kiss・・・

2005年5月18日 渋谷 アミューズCQNにて

(2004年:イギリス=イタリア=ドイツ=スペイン:104分:監督 ケン・ローチ)

ケン・ローチ監督の『ケス』を観た時の衝撃・・・ほどではないのですが、やっぱり痛い。しかし、暗くはない。

映画は水が流れるようにすらすらとしています。映像はとてもクリアで明るいし、出てくる人たちも良識があって愛嬌のある人たちです。

悪人というのは出てこない。しかし、誰も悪くはないのだけれど・・・・避けて通れない溝がある。

移民国家であるイギリスで、アイルランド人女性とパキスタン移民2世の男性が出会う。そして恋に落ちる・・・そのこと自体にはなんの不思議もないのですが、その2人が背負っているものが大きすぎて、ハードルが高すぎて・・・という現実を静かに見つめる監督の目がとても厳しい。

グラスゴーのカソリック高校の音楽代用教員のロシーンと父の雑貨店を手伝いながらクラブのDJをしているカシム。

建前では、愛さえあれば、勇気さえあれば、何事も乗り越えられるのでしょうが、カシムは二世でイギリス人であっても、恋愛となると家族の、イスラム教の絆、掟・・・ロシーンには理解できないものがたくさん出てくる。

またロシーンもアイルランド人でカソリック教徒、カソリック学校で教員をしている立場上の壁というものが出てくる。

自分の思い通りにならなくて怒るロシーンの気持ちもわかるけれど、カシムの立場もよくわかる。

自分の不満を言いつのるロシーンに辛抱強いカシムが、ついに怒って「白人にはわからないだろう」という溝。そしてロシーンに父の世代の歴史を静かに語るカシムの優しさが切ない。

そんな「同じ空気を吸っている人間同士の立場の違い」を距離を置いて静かに見つめて、流れるような映画に仕上げるケン・ローチ監督の「痛み」は「共感」となるのです。

ケンカと仲直りを繰り返す2人。それを複雑な思いで見つめるカシムの家族。そして2人の決断。

この映画を観たあとに、後にいた若い女の子が「なんだか、どっちの気持ちもわかるような気がする」と言っていました。

一応、人種の違いはない日本人同士の恋愛だって家族だとか、職業だとかであれこれ溝が出てくる・・・人類、皆全く平等というのは実はないんだよ・・・そんな万国共通の悩みを、優しく厳しい静かな目線で描いたこの映画、見終って、本当に「どちらの気持ちもわかるのだなぁ」という感慨にふけるような、そんな映画です。この冷静さと聡明さがとても好きです。

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