オペレッタ狸御殿

オペレッタ狸御殿

2005年6月8日 丸の内ピカデリーにて

(2005年:日本:114分:監督 鈴木清順)

この映画は絵画だと思います。

だから絵や写真といったものが楽しめる人には楽しめる映画。

映画というのはどこを観るか・・・選択するのは観る側なので起承転結のストーリーを期待する人には残念でしょう。

「自分が世界で一番美しい存在でいたい悪殿が美少年の若君を追いやり、若君は狸姫と出会い恋に落ち、めでたしめでたし」

はい、お話は一行で終わってしまいました。

私がこの映画で一番好きなのは着物、衣装の質感。

鈴木清順監督の映画は「着物が美しい映画」というサイトに載っているくらい、過去着物を美しく撮る事には実績があります。

着物、と一口に言ってもぺらぺらではダメなんですね。あくまでも夢物語だから、ちょっとあり得ない色や柄の組み合わせ、唐突にかわる着物、メインの登場人物だけでなくエキストラに至るまで、デフォルメされた一見重たげな着物で統一している所がいいです。狸だからしっぽまでつけてるし。

狸姫、チャン・ツィイーは唐の国からいらした狸姫ですから、純日本風な着物ばかりでなくドレス風のデザインの着物も着て出てきます。

唐だから・・・安直に中華風ではなくて、西洋ドレス風にしたところなんかは、センスの妙。アンバランスな安定感があります。

風呂に入る時の白い麻のような質感のドレス、ここはあどけない姫君の妙な色気が出ている所ですが、この風呂のシーンからいきなり海辺のシーンに飛ぶ所がいいです。水から水へという感覚の飛び方。また若君・雨千代と出会っていきなり舟の上での会話になってしまうときの水墨画をバックにした水の見せ方。私が水を綺麗に上手く使う監督の映画が好きということもあるのですが、鈴木清順監督もよく水を映します。

チャン・ツィイーの狸姫は、とにかく言う事をきかない・・・お付きのお萩の局(薬師丸ひろ子)がどんなにいさめても、「言う事をきかない」

周りの言う事に耳を貸さない登場人物って清順監督の映画には多いのですが、例えば『陽炎座』では松田龍平は、行くのをやめろと言われても、女の文に誘われて金沢へ行き、結局男と女の心中の物語の主人公になってしまう、『夢二』でも竹久夢二の周りの女性は、全く言う事をきかない。自分勝手に行動してしまうのです。翻弄されるのは男の方。

美しくて気の強い女性・・・これが、この映画でも主軸になっています。笑顔だけでなく怒ってすねた顔もかわいい・・・というのはよくチャン・ツィイーの良さを引き出していると思います。チャン・ツィイーはアクションばかり求められる女優じゃないと思います。アクションも出来る、ということであって、この映画でチャン・ツィイーのアクションを期待してはいけません。

反して、若君・雨千代、オダギリジョーはもう、ぼんぼんです。あまりにものんびりとしていて、のほほんと何も気づかない・・・というか気づくの遅い。

そんなのどけさがよくでていて、無垢な表情は世間知らずの姫君に見えました。

着物も狸姫に負けなくらい凝って色鮮やかで、お人形のよう。男らしさから離れていて、ある意味もう1人の姫君。

最初に菜の花畑で、ららら~んというシーンからして、もうお姫様状態。

こんな世間知らずのかわいい姫と若君が出会っただけで恋に落ちてしまう。この映画はデートムービーでもありますからこの2人が「一緒にいてしあわせ~~」というシーンが多い。このしあわせ~~~という2人の姿観てるだけで、しあわせ~~~眼福~~~になれればこっちのもの(?)ここに身をゆだねられるかどうか、なんです。

相変らず、理由理屈ではない映画で、宮藤官九郎の『真夜中の弥次さん喜多さん』というのはもう、監督がアイディアを練って、ねらっていて奇抜な事をやってもきちんとこういう面白さを出したいのだ、と説明がつく部分が多いので役者さんもわかってやっているような雰囲気なのですが、この映画ではオダギリジョーが「監督の演出意図がわからないまま終わってしまったシーンがあって・・・」と言っているように、演じている方もわかってない。

全ては清順監督の頭の中でできあがっているものなのです。意図的というより天然に放出するアイディア。わかってないのがよくわかるという映画です。

他にもこの映画は話のタネにはつきないのですが、最後に歌。オペレッタですから色々なジャンルの音楽があり、狸姫の中国語の歌詞も含めて独特な雰囲気を持っていますが、切支丹の予言者、びるぜん婆々の由紀さおりの歌は上手いです。

雨千代と狸姫が歌う「恋する炭酸水」の一本調子かわいらしさとびるぜん婆々の多彩な歌い分けというのも見所のひとつでした。

清順監督と遊ぼう!という気持ちがあればそれでよし。

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