トンケの蒼い空

トンケの蒼い空

Mutt Boy

2005年8月16日 イイノホールにて(試写会~GTFトーキョーシネマショー)

(2003年:韓国:101分:監督 クァク・キョンテク)

トンケというのは韓国語で「野良犬」という意味。

主人公トンケ(チョン・ウソン)はちゃんとした名前があるのですけれど、本名が呼ばれるのは映画の中で一回だけです。(だからなんという名だか忘れてしまいました)

田舎の街とはいえトンケの父は警察官、エリートです。しかしトンケは怠け者で乱暴者。高校も中退して家でぶらぶら・・・・端から見ると「なさけない!!!」とデコピンのひとつでもやりたくなるような青年です。

しかし、この映画の面白さは、このトンケという「負け犬」状態青年の微妙な成長を非常にユーモラスに描いている所だと思います。

「負け犬、負け犬」とはやし立てるのは周りだけで、本人は、妙にいじけたりしていない・・・かといって真面目でもなく家でゴロゴロ、スナック菓子を食べながら、テレビにアハハ・・みたいな描写もいれながらも、弱きものには優しさを見せる、そして意外と喧嘩が強い。

ただのいじめられっ子ではない・・・はぐれもの・・・みたいな感じなんです。

いつも口を半分開けて、猫背でちょっと落ち着きがない様子・・・でも、群れをつくってはしゃぐ事はしないで、ひとりを守れる青年。

それでも「俺たち、高校中退組、仲間に入らないか?」と誘われるあたりも、ゆるゆるとしたやりとりと脱力もののテンポと音楽で楽しく見せてしまう。しかし高校時代からブイブイ言っていたいじめっ子もまた、街のならず者になっていてトンケたちを目の敵にする。

方や、母を早く亡くして男所帯のトンケの家に、「スリの常習犯を更正させるために家におくことにした」という女の子が、同居するという成り行きにも・・・

父はとにかくエリート意識の固まりで厳しい、警官の息子というだけでトンケは、「えこひいきされている」と見に覚えのない嫉妬の対象にもなる。

だらだらしているようでも、結構、ドラマチックなトンケの周辺。しかし、トンケの凄いところは「周りに流されない」ものを持っているということです。このトンケを演じたチョン・ウソンのなにがあっても変えない表情というのが、筋通ってるのですね。

巻き込まれてしまった揉め事も、言い訳も責任転嫁もせず「罰は受けるが、罪は犯さない」ときっぱりと言い切る妙な強さをもってる魅力があります。憎めない奴。部屋でゴロゴロしたまま、ゴロゴロ~とフレームアウトしてしまったり、同居している女の子がバイクに乗っているのを、追いかけるシーンの妙な凝り方の割りには、大した事無かったり、火事になってしまうところではチャイコフスキーの『白鳥の湖』がばば~~~んと大音響で流れたり・・・といった映画の作り方が、とても面白く観られるのです。

最後にする喧嘩も、なんだかなぁ、映画にありがちな熱い戦いではなく、おいおいっとあきれてしまう喧嘩をえんえんとやったりします。

この映画の音楽の使い方、情けなさの演出の仕方、ユーモラスな間・・・ぎちぎちに作られた世界もいいのですが、なんだか時々青空見えるんだね・・・という隙間の使い方がとても上手いです。

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