さよならみどりちゃん

さよならみどりちゃん

2005年9月7日 新宿トーアにて

(2004年:日本:90分:監督 古厠智之)

この映画の主題歌は荒井由美の『14番目の月』・・・♪愛の告白を~したら最後そのとた~ん、終りがみえる~言わぬが花~その先は~言わないで~~~♪

いやはや、この映画はそういう映画なんです。

原作は漫画で、ユーミンの歌の世界。でも厳しい純愛のしっぺ返しを教えてくれる恋愛教科書映画でもあるかなぁと。

主人公のユウコ(星野真理)はバイト先で出会ったユタカ(西島秀俊)と「つきあう」訳ですけれど、ユタカはユウコにしゃらりと、自分にはミドリという恋人がいるから・・・とか、言ってしまうのです。

それでも仮面のように表情を動かさないユウコ。ユウコはわかっていてもどうしてもユタカから目が離せない。そんなユウコとの関係で完全に主導権を握り、時には利用してる?とも思わせる狡猾さをみせる魅力的なユタカ。

ユタカは、女好き、あちこちの女に手を出す、そして誰も恋人にはしない、という厄介な男。そんな男が「恋人」だと言うみどりってどんな女なんだろう・・・ユウコでなくても興味が出てきます。

ユタカを演じた西島秀俊の猫のような演技が凄いです。

ただ、女を泣かせる男だったら、さっさと見切りをつければいいのですが、そこら辺の考えているのか、本能なのか・・・わからない先回りでユウコに「好き」と思わせ、「好き」と言わせないユタカの行動、言動のあれこれがなんとも怖いようで魅力的。

汚らしく不潔になりそうな男でも妙な清潔感。

ユウコがやっぱり私はユタカが好き、と思うその瞬間、ホースで自分に水をかけておどけてみせるユタカのシーンが何気ないようでどきっとするわけです。

別にユタカはユウコに優しくした訳ではないし、ユウコのわがままを聞いた訳ではない、ユウコに都合のいいようにした訳でもない。

ただ、いたずらして水をひっかけた「お詫び」といって自分に水をかけるユタカ。参りました。

登場人物はそんなに多くなく、バイト先の年下のタロウの正義感と青臭さ、マキのさばけ方、なんて方がわかりやすい恋愛感情なのかもしれません。好きだと思ったら一途になる、こいつは、ただの女好きだとわかればさっさと手を切る。

しかし、やせ我慢しているようなユウコが一瞬見せる鬼のような怖い視線。さすがのユタカもその場を立ち去るしかない迫力。

そんなユウコとユタカのシーソーのような関係の上下の仕方、させ方がとても上手いと思うのですね。

自分の思い通りになる恋愛、おつきあいなんて実際ないというリアルさがとても自然に伝わってくるし、それでも好きにならずにいられない、気持ちのもどかしさ・・・・そんなものがとても丁寧に、怖いくらいリアリティを持って描かれています。

純愛、ひたすら男女が慕い合う・・・そんな純愛の見事なしっぺ返し。

映画を観ていく内いユウコは、ユタカに「好き」だとか「愛してる」だとか、「自分を好きになって」と先に言ってしまったらダメだ・・・と思うのですが・・・そんなユウコの惑いに対して何も言わないユタカの背中がとても怖い。

「もう嫌いだ」とか「好きじゃない」とか言わない・・・無言。こんな残酷なことってないのではないかと思わせる普段は饒舌なユタカの沈黙。

ユウコはユタカに勝手に決められてカラオケスナックでバイトするのですけれど、ここがまたユウコの別の世界となっていく訳です。

常連さんたちの何気ない描き分け。連れだってカラオケで、懐メロを歌う連中、一人でカウンターで静かに飲んでいるリーゼントの男、最初はいい人そうで、実はスケベ根性丸出しにしてくる客。

そして口は悪いが鋭い指摘をするスナックのママ。

そしてユウコとユタカの仲はこれからどうなっていくのか観客にゆだねるようで、さらり、からりと突き抜けたようなラスト。

『ロボコン』で爽やかで軽快なコメディタッチの映画を作った古厠監督ですが、男と女の間に流れる黒くて深い川をあくまでも軽く、ドロドロせずに見せてくれる、という手腕が凄いと思います。

痛いことを痛く描かず、痛さを感じさせることができる。

懐メロの使い方がまた、上手いというか・・・ユタカが歌う『ルパン三世』(わざと下手に歌ってみせる歌の上手い奴)、本当に下手なんだけど好きなんだよ、カラオケが、っていう客の『ロンリー・チャップリン』そして『14番目の月』・・・う~ん、音楽というより歌の使い方がとても上手いです。

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