フル・オア・エンプティ

フル・オア・エンプティ

Gol ya Pooch/Full or Empty

2005年11月27日 有楽町朝日ホールにて(第6回東京フィルメックス)

(2005年:イラン:98分:監督 アボルファズル・ジャリリ)

クロージング作品/特別招待作品

東京フィルメックスでは、コンペティションの審査委員長の作品がオープニングかクロージングに上映されます。

これは今年の審査委員長、アボルファズル・ジャリリ監督が、日本の麻生久美子を招いて撮影している映画『ファズル』の撮影合間に即興的に作られた、そうなのですが、そんな風には見えない完成度の高い「人間喜劇」です。

ペルシア湾に面する港町、チャバハールに17歳の少年というか青年がやってくる。

彼は、国語の教師になる大志を抱いてやってきたのです。

しかし、教師になる為に奔走するけれども、それが上手く行かないことばかり。

教師になる為の手続き、試験を真面目にやろうとするのだけれど、役所はいつまでたってもいい返事はしない。逆に、保証人が必要だ、前科のない証明が必要だ、試験を受けなければならない、承認が降りるのを待っていなければならない・・・と言われるたびに、「わかりました」と言って、また奔走する青年の真面目な姿がコミカルに描かれます。災難につぐ災難。めげない正直者。

いつまでたっても教師の許可が出ないから、何とかアルバイトをしようとすると、警察につかまってしまう、町の子供たちに勉強を教えるアルバイトをしようとすると、親が出てきて、家にはお金がないから・・・その度に、借りた家の大家のおばさんに、水パイプをぶいぶいすって、愚痴を言って、次の日にはもう、けろりと前向きに新しい試みにチャレンジする大志を抱いた青年、めげない。めげないけれど、やることやること、もう、とほほ・・・・・・・・・になるくらい裏目に出てしまう。

本当にめげないのですね。何かあると水パイプをずずずずず~~~、ホント嫌になっちゃうよ、と愚痴ってはい、次。

真面目な事に奔走するというのは良いことなのですが、努力すれば必ず報いがあるのか?というシビアな視線がユーモアの裏に見えます。

また暇なので紙飛行機を作ったら、警察が見つけて「あ!飛行機作ってるな!お前は、アルカイダだ!」なんて、ひっぱられてしまうのは、ブラックな笑いです。

また、青年はある女性に恋をしてしまう。すると出てくる女性、看護婦さんも、試験を受けにくる女性も、船の乗客もみんなその好きになってしまった女性が演じていて、(恋する青年には女性は皆、好きな人に見えちゃう)勝手に、「僕、結婚するんですよ~~、だから教師にならなくちゃ」って、また、空回り的に張り切って、失敗を繰り返す青年、とてもいじらしい。おいおい、ちょっと考えなさいよ、って肩に手を置きたくなる青年です。

女性の兄は理髪店をしていて、そこから近づこうとすると・・・外でボコボコにされる・・・まためげずに行くと、またボコボコ・・・だんだんボコボコにする人数が増えている。頭に包帯巻いて、水タバコ、吸って「いや、まだ、大丈夫だ!がんばるぞぅ」

この青年の辞書に挫折とか屈折という文字はない。前進あるのみ・・・しかしそんなやる気のある青年をぺしゃんこにする社会。

そして、大家のおばさんが、いつも黙って愚痴を聞いている。意見は言わず、黙って聞いてくれる。そして何気ない所で青年のフォローをしている。

コメディの方法というのに、同じことの繰り返しというのがあるのですが、この映画は、そこら辺のツボがしっかりわかっています。

また、タイトルのフル・オア・エンプティとは何か・・・・がわかると、観ているこちらはもう、はらはらしながら笑ってしまうのです。

監督が、いつの時代、どんな社会にも微笑みは必要で、この映画は私にとって「モナリザの微笑み」です、と言うのが納得の微笑ましさの裏に見えるシビアな世界。

上映後のティーチインで「日本の観客は映画で泣くけれども、笑わないと聞いていますが、この映画はどうでしょう?」と逆に観客に聞く、きさくな監督には、大拍手がおきました。

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