セックスと哲学

セックスと哲学

Sex o Phalsapheh/Sex & Philosophy

2005年11月27日 有楽町朝日ホールにて(第6回東京フィルメックス)

(2005年:タジキスタン=フランス:101分:監督 モフセン・マフマルバフ) 

特別招待作品

冒頭、車のダッシュボードにろうそくが並べられて、炎をゆらしている。

これは車を運転している男性が、40歳の誕生日の祝いのろうそく。

しかし、40歳を迎えた男性はどこか憂鬱。

そして、4人の女性に電話をかけ、ダンスのレッスン場へ来てくれ・・・と言う。レッスンが始まる前に特別に会いたいのだと。

この4人の女性は、それぞれ、「黒」「赤」「青」「白」の服に身を固めた美しい女性。

男性はダンスの教師で、女性達はその生徒、そして男性の愛人でもあります。

女性たちは、次々に現れますが、自分の他に愛人がいたということをそこで初めて知ります。

外は、紅葉の美しい秋から冬にかけての風景。ダンスのレッスンの幻想的なイメージ映像の中で、それぞれの女性たちが男性との出会いを語っていく。クラッシクバレエのような、民族舞踊のような、美しい舞踏のシーンにあくまでもイメージとしての過去が描かれます。

黒の女性は、飛行機の中で出合った・・・・という具体的な出会いはあるのですが、他の女性はあまり具体的ではありません。

活き活きとした赤の女性、落ち着いた美しさを持つ青の女性、そして最後白の女性から、手ひどいしっぺ返しをくらいます。

映像は、美しい紅葉の風景をベースに、ひらひらと踊る女性たち、赤い色のセンス、色で象徴される女性たち、そして去っていく女性たち。

幽玄的で、美しい絵画の連続、ゆらゆらと振り子のように揺れる女性達、つぶやくような台詞。確かに、映像の色合いはセルゲイ・パラジャーノフ監督の美しい色使いへのオマージュにも思えますが、あくまでも現代であり、宗教的なムードはありません。また、獣の臭いがするような外の荒々しい風景というものもなく、あくまでもダンスレッスン場は男の心の中。踊っていた女性達は踊りをやめ、ひとり、またひとりと去っていく。

男性は、40歳になったから、自分の生き方を変えたいという。

女性達と会う時は、いつもストップウォッチを持っていて、「幸せだと思う」時間をはかっている。幸せが終わったと思ったら、ストップウォッチを止める。カチカチカチカチという音が幸せの時間。

しかし、男がはかっている幸せの時間のトータルはあまりにも短い。4人の女性達とは、ある1人の女性と出会って、恋して、夢中になり、倦怠を迎えた・・・という4つの段階のメタファーだと思います。

女性達はどことなく似た雰囲気を持っていますし、4人は結局1人なのかもしれないと思います。

女性達は、男性に対して、責めたり、問いつめたりはしません。こういう流れになってしまったのね・・・・という表情をしている。

1人1人が別人だったら別のドラマが展開されるでしょう。

どんどん変化を続ける女性達に対して、男性の接し方、考え方はいつも一緒。そして孤独をつきつけられる。幸せを感じる時間はあまりにも短いという事を、思い知らされても何も出来ず、また、車に乗るが、ろうそくの炎はもう燃え尽きそうです。

セックスとは、哲学とは、というタイトルよりも1人の男の心象風景。女性との幸せを求めても、求めても得られなかった孤独。それだけが残る色鮮やかな憂鬱。

映像の合間に、とても微笑ましい風景が必ずはさまれていたり、その映像美が大変素晴らしい感覚だと思います。

色鮮やかな映像美に浸る、瞳の快楽のような映画。この映画はとても好きです。美的センスがないと、バランス感覚がないと出来ない世界。

観る側もそれに身をゆだねられるかどうか・・・静かに美しく哀しく、そして少し可笑しくて。

この映画のスティールを担当しているのは監督の次女、ハナ・マフマルバフ。

13歳にして『ハナのアフガンノート』を撮り、過去のフィルメックスで審査員特別賞を受賞しています。

さすが、娘に映画の英才教育をした父。父の映画はさすがに娘たちよりも、感度の高いものになっています。

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更夜飯店

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