サグァ

サグァ

Sakwa

2005年11月23日 有楽町朝日ホールにて(第6回東京フィルメックス)

(2005年:韓国:118分:監督 カン・イグァン)

コンペティション作品

この映画を観て、思い出す映画が3本あります。

シュー・ジンレイ主演の中国映画『I Love You』、大谷健太郎監督の『アベック・モン・マリ』と『とらばいゆ』です。

恋愛映画といっても、恋愛を描きながら恋愛の先にあるものを描いている、ということです。

最初は喧嘩していた2人が結ばれました、めでたし、めでたし・・・・そういう映画はたくさんあります。

ラブ・コメディというジャンルがあって、多分、多く観客は恋愛に「安心したい」のかな、と思いますが、この映画と前にあげた3本は「恋愛に不安になるけれど・・・その先は?」という事で、結構シビアな現実になってしまいます。でも、シビアな現実のドキュメンタリーではありません。

立派な恋愛映画です。

恋愛というのはハッピー・エンドの一筋ではない、と現実でわかっている人達が、現実逃避で、安心したい、だからワンパターンであっても続々と同じようなラブコメディは作られる。または恋愛真っ最中の2人が今の気分を共有できる安心が欲しい。

観客が欲している安心を提供するのも映画の役目であり、安心というのは娯楽、気持ちいいこと、精神健康上必要なものでしょう。

しかし、恋愛に人は何を求めるのか・・・というのは、もう永遠の課題なのかもしれません。つまり恋愛の相手に何を求めるのか・・・という追求。この映画は、安心を与えてくれる映画ではありません。むしろ、恋愛って何?その先は何がある?ということを描いています。

この映画では、主人公のOL、ヒョンジュン(ムン・ソリ)が、長年つきあっていて、もしかしたら結婚?と期待している相手から、いきなり別れを告げられます。

その理由っていうのが、「自分が消えてしまいそうだから」・・・・これでは、いくらなんでも納得いきません。当然、「だから、何なの?もっとはっきり言ってよ」ということになる。観ている私もそう思います。

しかし、相手は何も言わず去ってしまう。そんな時、同じビルで働くサンフンという男性が、ヒョンジュンに接近、そして2人は結婚します。

そこら辺は、微笑ましいエピソードをはさんで、コメディタッチにしています。

サンフンという人は「いいひと」なんですが、ある意味、それだけ・・・でひたすら誠実、下手すれば退屈。

またヒョンジュンの家族も両親、妹がらみで騒がしい。

呑気な父、口うるさいけれどしっかり者の母、コンプレックス持って反抗的な妹。でも仲の良い家族。ちょっと鬱陶しい家族かもしれません・・・婿さんからしたら・・・そんな鬱陶しさの出し方も、微笑ましい描き方をしています。

ヒョンジュンのサンフンの夫婦は、どんどんすれ違いを重ねるようになる・・・そんな時、ふられた男と再会してしまう。しかし、ヒョンジュンは丁度その時、身籠もっているのです。

前の彼氏は、後悔している・・・と言い「結局、他人を愛する前に、自分を愛している身勝手だった」と謝ります。

これが、耳が痛いというか・・・どきっとするというか・・・恋愛というのは、結局、自分が気持ちよくなる、自分に都合よくなる・・・それがいい恋愛でいい結婚につながる・・・という自分勝手な思いこみを相手に押しつけているって、身につまされるのです。

逆に勝手に押しつけられても、困る。そんなことの積み重ねで喧嘩しても、仲直りできるかどうか・・・

でも、それは不快ではありません。むしろ、そうだなぁ、と納得する言葉です。

どうも悪い事が重なる時は重なってしまうのだ、という話の組み立て方がとても上手いです。

子供が出来て大喜び、の時にサンフンは単身赴任、昔の彼氏に出合ってしまった時は妊婦、単身赴任を追っかけていくと・・・という具合に上手くいかないときは、何故か重なる、とほほ感。

この映画では、主演のムン・ソリの顔のアップがとても多くて、撮る角度によって別人のように見えます。わがままで、気が強くて、しっかり者で、家族思いで、情が深くて、寂しがり屋で・・・・といった1人の人間の色々な面を顔のアップで見せているのをとても面白く観ました。

監督はこの映画の脚本を書く前に、50組くらいのカップルにインタビューをしたそうです。

2人一緒ではなく、男性と女性、別々に出逢いからどんなつきあいをしているのか・・・聞いた所、男性側と女性側の言い分が全く違う事がある、ということに気づきこの脚本を書いたそうです。

タイトルのサグァというのは韓国語で、「リンゴ」だそうですが、同時に「謝罪」という意味もあるそうです。

ヒョンジュンは再会した男に、リンゴを買って渡す・・・それは、まだ未練がどうしても捨てきれないのかな?という青いリンゴ。

そしてラストの台詞は、ヒョンジュンがサンフンに「ごめんね、ごめんね」と謝る・・・3人はどうなってしまうのか、映画はそこまで丁寧に説明しません。だから、後どうなるのかな、自分だったらどうするのかな?と考えてしまいました。

多分、50組のカップルの話は全く同じはないはずです。この映画の先は、観た人、それぞれの結末になるのだと思います。

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