やわらかい生活

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It's Only Talk

2005年11月23日 有楽町朝日ホールにて(第6回東京フィルメックス)

(2005年:日本:126分:監督 廣木隆一)

特別招待作品

監督の前作『ヴァイブレータ』について書いた時、好き嫌いがはっきり別れる映画かもしれない、といった事を書いたのですが、今回、この映画も主役が引き続き寺島しのぶ・・・という共通点はありますが、やっぱりこの主人公に嫌悪感を持つ人もいるのではないかと思います。

主人公の優子という35歳の女性は、躁鬱病です。

この繰状態と鬱状態の差というものをまた、寺島しのぶが、役に入りこんでいますね・・・と感心するくらい熱演していますから、これに共感を持つか、嫌悪感を持つかどちらかかと思います。

何故、優子が躁鬱病になったのか・・・それは優子は、過去の災害の数々を引き合いに出しますが、結局、よくわからない。

優子は、蒲田に引っ越してきます。これは蒲田という町の映画でもあります。

東京ですが、お洒落、都会というよりも、ちょっと雑然とした下町のような雰囲気・・・粋のない下町の空気が映画の全体を貫いています。

優子は、この雑然とした雰囲気にひかれて、アパートを借りて蒲田の住人になります。

そこで出合う男達。大学の同級生で、都議会議員のホンダ(松岡俊介)、出会い系のネットで知り合った痴漢のK(田口トモロヲ)、優子のサイトを見て、声をかけてきた鬱病のヤクザ(妻夫木聡)・・・・そして一番深く関わることになるのは、実家のある九州から家出してきた従兄弟(豊川悦司)

そういう男達との会話を通して、優子という1人の女性の複雑な心理を描き出しています。

『ヴァイブレータ』でも、情緒不安定な女性が、長距離トラックに乗り込んで、トラックの運転手(大森南朋)と行動を共にしますが、大森南朋は普通こんなに「いいひと」はいないでしょう、という「長靴をはいた王子様」でした。

この映画では、家族と別居して東京に流れてきた従兄弟、豊川悦司が、優子の「王子様」でしょう。

躁状態の時というのは明るいのではなく、もう落ち着かなくて、動き回ってしまう、どんなに体が疲れても精神は高揚したまま、常識を越えた行動にまで走ってしまう、また鬱に入ってしまうと身体の機能が全て停止した状態になってしまう優子。

そんな優子に振り回されるようで、実は優子を見守っている・・・という家族と別居して、店つぶして、愛人にも捨てられてって男の割には、とにかく優しい。そんな優しさを時々、鬱陶しいと拒絶する優子です。しかし従兄弟は我慢強い。そんな2人のやりとりが時におかしく、時に痛く、時に切なくて・・・・原作となった『イッツ・オンリー・トーク』というタイトルからくる、会話からくる人間模様です。

優子は、どんなに自分を責めてみても、他人を責めてみても救われない。もう自分の幸せなんか探しても探してもないのだ、手で水をすくうようにどんどん幸せは流れていってしまうのだ、という諦めの色を目にたたえています。

それが、時にはきつい言い方になってしまったり・・・子供が駄々をこねるような言葉になってしまったり・・・という複雑さと街の風景が見事にマッチしていて、優子が、あるひとつの自分なりの解決を見いだすというラストになるのだと思います。

かわいくない、と一言でばっさり斬るには繊細すぎる主人公です。精神心理というのは、わがままとか、勝手とか、子供とか・・・そんな陳腐な一言で言い表せないものだなぁ、とこの映画を観て、しみじみ思いましたね。

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