東海道四谷怪談

東海道四谷怪談

2005年11月22日 東京国立近代美術館フィルムセンター大ホールにて(第6回東京フィルメックス・特集上映 監督中川信夫)

(1959年:日本:76分:監督 中川信夫)

名前は聞いたことがある、古典でも意外と内容は知らないってことがよくあります。

古典を専門に研究している人はともかく、なんとなく知ってるなぁ、という古典。

これは鶴屋南北が書いた『東海道四谷怪談』の映画化ですが、私は『牡丹灯籠』と混同していましたし、一緒に見た人は『番町皿屋敷』と混同していた、と言っていました。

私がこの話を知っているのは昔観た、歌舞伎で、その後、京極夏彦が大胆に設定を変えた『嗤う伊右衛門』になってしまう訳です。お恥ずかしい。

中川信夫監督というのは、実験精神にあふれている、今回の上映ではキャッチコピーは「地獄のアルチザン」だったのですが、まず、ストーリーテリングが上手いと思います。

実験的なシーンを撮ってもあくまでも、映画はわかりやすく、娯楽になっていて、色々なジャンルをこなすことができる。やっぱり活動写真と言われた頃から映画を作っている人というのは映画というものをわかっていて、そして考えているのでしょう。

単なる観客がどうのこうの、文句を言っても、それは所詮、ないものねだりなんだと思います。

民谷伊右衛門(天知茂)が冒頭、お岩を妻にしたいと懇願する所から映画は始まります。父が浪人の身分で武家の娘を嫁になんてもってのほかじゃ、とつれなくされてかっとした伊右衛門はその場で、父を切り捨ててしまう。これが約10分、1シーンで撮られています。

寒い夜の空気が伝わるような映像。ゆっくりと流麗に動くカメラ。そして、切り捨てる所の瞬発力。一気に魅せられます。

それを仲間の直助に見られてしまい、入れ知恵で伊右衛門は、他の人に罪をなすりつけ、お岩を嫁にする。

しかし、浪人暮らしの伊右衛門に仕官の話が出ると、今度はお岩が邪魔になる。そしてまた、直助の入れ知恵で、毒薬を飲ませて殺すのです。その時、利用していた按摩の宅悦も斬る。お岩と宅悦の死体を一枚の戸板に打ち付けて沼に捨てる。

これが歌舞伎などで有名な「戸板返し」につながる訳です。

自分の出世欲、願望、欲求の為にどんどん罪を犯し、その罪をまた他人になすりつけ、その報いが後半のお岩の呪いです。

戸板返しも何度もシチュエーションを変えて、出てきたり、毒を盛る時に、両国の花火の映像がかぶったり・・・直助を斬るとその畳が沼に変わるといった美術。大変に素晴らしいです。

天知茂が、ただの悪者ではなくて、人間の欲と良心の呵責にどんどん追いつめられていく焦燥感を見事に演じていました。

台詞の言い方、言葉使いなどは、さすがに今時の若い役者さんがどんなに練習しても身に付かない、リアルなものを感じますね。

お岩の亡霊が怖いというより、罪の意識がいつもある人間の心理状態のきつさのほうが私は怖いです。これは別に時代劇でなくても、何にでも共通することだからです。

後でこの映画は76分だったと知って、びっくりしたのですが、とても中身の濃い充実した映画なので観ている体感時間は、もう大作映画でした。

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