落ちる人

落ちる人

Krisana/Fallen

2005年11月23日 有楽町朝日ホールにて(第6回東京フィルメックス) 

(2005年:ドイツ:90分:監督 フレッド・ケレメン)

特別招待作品

たまたまですが、この映画を観に行く前、家で、写真のサイトを見ていました。

街や木々や風景の写真のサイトです。下手すると一枚の写真は下らない長文なんかよりよっぽど饒舌だなぁ、と思いました。

この映画はとても写真的です。動画映像というよりもモノクロの静止画像といった感じを受けます。

ラトヴィアのリガの街。

夜、1人の男が橋の上を歩いてくるのをカメラは静かに映しています。

橋の真ん中で、これから身を投げようとする女性がいて、目が合いますが、男性は何も言わず通り過ぎてしまう。水音。

身投げを警察に通報したものの、男性は、その女性が気になり、バーに行って彼女の忘れていったバッグを見つけ出します。

そこには男への別れの手紙が入っていました。手紙の住所から男性の家を訪ねることにします。

この映画は、ドイツ人の監督がリガの街に滞在していたときにリガの街並みに触発を受けて作ろうと思いついた映画だそうです。

映画は、人間よりも長く街の風景を映します。まるで写真集のように。

しかし、映画は後半になると、男性、身投げした女性、その恋人らしき男性、3人の精神世界をあぶりだすようになります。

タイトルの落ちる人、というのはこの3人は、ある事から、それぞれ行動を起こす。それを「落ちていく人々」ととらえた監督の視点が面白いです。そして落ちていく3人の着地点はそれぞれ違います。

ある人は死であり、ある人は現実、ある人は幻想に着地点を見いだす。その課程をあくまでも静かな写真の風景の中で、「落ちる」という動きを見せています。

モノクロの映像は、光と影がカラーよりもますます際だって見えて、カラーは絵画的だが、モノクロはスケッチ、グラフィック的なもの、また人間の感情がより明確に映像に反映されると思う、という監督の強い自信と意志がよくわかるような気がします。

監督がこの映画は静かなものにしたいと思っていた、というように劇的な変化というものは描かれません。

だから、映画を観るというより、絵画や写真を観るというつもりで観ると大変興味深く、その映像は美しい安定感を持っています。

音楽も店に流れている音楽くらいで、あとは、風の音、水の音、鳥やカエルの声、犬の吠える声といった自然音を、写真に沿わせるような作りをしています。

写真を学んでいる人、絵画を学んでいる人が観るともっと深い何か、が見えるのかもしれませんが、私は写真をじっと見ていたら、その絵が動き出した・・・という不思議なファンタジックな気持ちでこの映画を堪能しました。 

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