力道山
2006年1月19日 スペースFS汐留にて(試写会)
(2004年:韓国=日本:149分:監督 ソン・ヘソン)
力強い、骨太の映画です。甘えのない厳しい世界をびしばしと描く。私はこういう映画が大好きです。
とはいえ、私は力道山を知りません。でも、名前は知っています。何かといって今でも語られる事の多い人だからです。
力道山が亡くなった年に生まれた私は、力道山ブーム、街頭テレビなどを知りません。
知っていたら、また、別の見方というものも出来ると思うのですが、やはり、「現実を知らなくても映画としての吸引力」という事にかけてはこの映画は強引とも言えるくらい、力強いものがあります。
日本も共同製作ですけれど、監督、脚本、スタッフは韓国。でも、舞台は日本で、台詞も日本語。もちろん日本人の役者さんも出ていますが、これだけきちんと日本を描く事が出来る・・・というのが驚異です。
ハリウッドが、フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリでいまだに、金かけたハリウッド・ニセモノ・日本映画を出してくるのに比べなんて謙虚なんだろう・・・と思いますし、本当に日本での韓国人を描きたかったのだろう、という作り手の高い志が、映画を貫いています。
戦争中の日本で、まず、相撲取りとして日本に来た力道山(ソル・ギョング)
朝鮮人、朝鮮人・・・とののしられ、いじめられ、迫害されても相撲の世界で生きていく様子がまず、素晴らしく力強い。
「横綱になって笑って暮らしたい」とぽつりとつぶやく力道山。
どんなに差別迫害があっても、生き残る・・・という力がみなぎっています。その為には策を弄するという頭の良さも描かれます。
相撲の稽古の様子など、リアルですね。普通、稽古では締め込み(まわし)の色は、十両以上の力士が白、それ以下は黒、もっと下は締め込みすらさせてもらえない、というのを知っていましたか?そこら辺もきちんとしていました。だから説明がなくても上下関係はある程度わかります。
この映画の力道山は、その締め込みすらさせてもらえない弟子の1人です。
相撲の世界では、部屋の親方だけでなく、後援会や後ろ盾というのがとても大きな存在。
やくざと思われる後援会会長(藤竜也)に、力道山は認められるようになり、相撲を辞めた後もなにかと力道山のバックアップをするのはこの会長です。実はこの映画はこの2人の関係をずっと追った映画でもあります。
関脇までいっても、実は朝鮮人だから・・・という理由で大関になれず、相撲の世界を去る、力道山。
相撲時代に出合った妻、綾(中谷美紀)が、夫、力道山の事を家でも「関取」と言うのもリアルです。
そしてプロレスに出会い、アメリカに渡り修行して、当時、日本では知名度の低かったプロレス団体をやはり会長の後ろ盾で立ち上げ、テレビの普及と共にその地位を築いていく。しかし、どんなに成功しても、自分は朝鮮人だ、という引け目からはどうしても逃れられない。
密かに同胞の焼肉屋で、焼肉を食べながら、「俺は、日本に来てから笑ったことがない」とまた、ぽつりと言う力道山。
会長の差し金で、秘書として萩原聖人が、力道山の元につく。この萩原聖人の謙虚さもとても綺麗に描かれていました。
迫力のあるプロレスの試合の数々、そしてだんだん、力を失い、失速していく力道山。
普通、外国が日本を描くと、エキストラに近い人は、日本人でなくアジア人であればよくて、へんな日本語使ったりするのが当たり前、と思っていましたが、この映画はエキストラに至るまで、きちんとした日本語を話す。
また、ダンスホールの司会が、マギーだったり、日本人の役者の細かい使い方、また、方言の使い方なども細心の注意を払っています。
たしかに、関取時代の力道山が、スーツ姿だったりするのは、まず、着物かな、とも思いますが、こういう姿もないわけではありません。
力道山を演じたソル・ギョング。『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』『シルミド』・・・とどちらかというと細身で、鋭い感じの役が多かったのに体重を大きく増やして、力士になっても、プロレスラーになっても違和感のないどっしりした姿。
役者根性を感じます。日本語の台詞も、力道山は、韓国出身だと隠していた・・・という事実があって、言葉には細心の注意を払って、余計な事は言わない・・・という上手い使い方をしています。
でも、始めて、綾と出合ったとき、大根をかじっていて、「おいしいですよ」と差し出したあと、「にがいけど・・・」ってぽそっと言う所なんか本当に感心して何故か涙が出ました。
プロレスのシーンもソル・ギョングが吹替えなしでやっている、と明かにわかるシーンが多くて、本当に凄い人。ソル・ギョングって。
影の主役、藤竜也も細身でありながら、親分、会長としての品格の大きさ、というものをきちんと出せる人でした。
テレビの移り変わり・・・もう、プロレスの時代はおわりです、これからはオリンピックですよ・・・というのも時代をきちんと知っていますね。
それでも、大きな夢を持ち続けた力道山とそれを支えた人たち。しっかりとした骨太映画です。撮影は『殺人の追憶』のカメラマンで、ちょっと灰色がかった沈んだ色合いを大切にして、貫いている美学もとても好きです。
韓国映画だから、反日の色が強いのか、と思ったら、逆に力道山は日本にいて、朝鮮戦争に対して批判的です。
もし、日本に来ていなかったら、俺はただの弾よけだったろう・・・こんな成功はなかっただろう・・・という描き方も、新鮮ですね。
平成の時代になっても、根強い反韓、反日感情。それを日本と韓国が、はねとばして立派な映画を作った、というのも心熱くなるものがあります。変にうわっつらのブームに流される人は、おそらくブームが去れば、さっさと別のブームに飛びつくでしょう。
そんなうすっぺらなものをはねとばす力があります。映画としてとても立派な態度だと思います。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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