カミュなんて知らない

カミュなんて知らない

Who's Camus anyway

2006年2月23日 渋谷 ユーロスペースにて

(2006年:日本:115分:監督 柳町光男)

第18回東京国際映画祭 日本映画ある視点部門 作品賞受賞

若いうちにやっておいた方がいいもの・・・・のひとつに「映画を作る」って私は入れたいです。

私はたまたま映画が好きだから入った映画研究会が、主に8mm自主映画サークルだったので、自主映画作りに巻き込まれた経験をしているのですが、これが、自主映画とはいえ、作るとなるとどんなに映画を作るのが難しいか、身にしみる経験をしました。

同時に若い映画好きの集まりに参加して、映画について語れる喜びもあったけれど、もう若者っていうのは身の程知らずの「王様」です。

まぁ、生意気だ、生意気だ・・・・偉そうな事ばっかり言っちゃって、作る8ミリは、なんともいえんシロモノで・・・でも、経験としてそういう事は良い事だと思います。いくつになっても成長せず、王様、女王様では困るけれど、通過点としては貴重かな、と。

この映画は、ある大学の映像ワークショップで学生たちが映画を作るあれこれ、なのですが、自主映画とは違うカリキュラムのひとつとはいえ、「あの若い映画好きの集まるあの雰囲気」がばりばり出てくるので、観ていて、もう、背中がむずむずしましたね。ひ~~~むずむず~~~。

映画の授業の一環なので、監修である教授から、映画化する原作というのは渡されるのですが、これが『退屈な殺人者』という17歳の高校生が理由なき殺人をしたノンフィクション本。

もちろん映画作りをしたい、という若者たちですから、映画に対するウンチクは、知識と熱意だけでも大したものであるというか、でもその言い方がなんとも「王様」で苦笑もの、というのがさすが、実際、大学で映像、映画作りの指導をしていた監督ですね。

そして、役割分担というのもするのですが、監督になった柏原収支くん・・・もう普段から周りから「監督!」と呼ばれて「おぅ!」なんていう王様ぶりがまたねぇ、いいです。背中、むずむず。

前半は映画撮影に入るまでの、いざこざです。主役の人が出られなくなって、急遽代役を捜さなければならない、映画を作る資金がもう足りない、そして原作の解釈というのが、またばらばら・・・・まるでカミュの『異邦人』の主人公のような理由なき殺人を犯した高校生の心理をどう解釈して映画にするか、大もめです。

また、監督に対しても「松川はかっこいいって思われたいから監督になったんだよ」っていう言葉なんかリアルな反応。

監修している教授というのはあまり口は出さずに学生たちにまかせています。昔はたくさん映画を作った映画監督だけれども今は大学で学生に教えるにとどまっている・・・という教授の惑い・・・というのが、ヴィスコンティの『ベニスに死す』になぞられて描かれる。

いや~やりそうで、やらないこと、堂々とやっているなぁ。

また、監督、松川の恋人というのが、吉川ひなの。これが監督である柏原くんにべたべたとまとわりつき、周りは密かに「アデル」とあだ名をつけている。フランソワ・トリュフォー監督の『アデルの恋の物語』でイザベル・アジャーニが演じた、恋にとりつかれて狂気にいたるアデルです。

アデルに比べれば可愛いものだけれども、しつこくべたべたぶり、吉川・アデル・ひなの、良かったですね。あの髪型は今はしないだろうという過激なカール。これが、怖いな。そして松川は、「来る者は拒まず」という性格で、女の子が寄ってくれば拒否しなくて涼しい顔をしている奴、というのもちょっと昔風。

また、スタッフの中でもあれこれ恋愛沙汰が起きるというのも・・・・なんとも、いやはや。そういうものですね・・・・。

しかし映画は映画を作る事を映画にした、トリュフォー監督の『アメリカの夜』とは違って、後半はクランク・インしてから・・・映画という虚の世界と映画を作るという現実の世界のクロスのさせ方が上手い。

映画というのは、所詮はつくりもの。虚の世界です。だから、作るのは難しい。そこら辺を、映画作りをする若者たちをメインに持ってきながら、映画というものは・・・という監督ならではの解釈がきちんと出ている映画を作る映画だ、という点はマニア心をくすぐります。

映画を作る学生たち・・・で前田愛が大きくなったのでびっくりしましたが、後になって知って驚いたのは、制作担当の学生が、『木村家の人々』の主人公の少年、伊崎充則くんだった・・・いやぁ、大きくなりましたね。

もと監督の教授が、同僚との歌舞伎と映画についての会話で「映画のもろさ。それが何とも映画のかわいいところなんですがね」というのには私は深く同感です。

映画というのはもろいもの、かわいいもの・・・本当にそう思います。長く映画に関わってきた人の実感って感じがします。

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