ギミー・ヘブン

ギミー・ヘブン

2006年2月23日 渋谷 ユーロスペースにて

(2004年:日本:121分:監督 松浦徹)

この映画は、「新本格ミステリ」です。

新本格ミステリとは何か・・・と書くとなると長々と書くことになってしまいますが、いわゆる古典ミステリ、日本だったら江戸川乱歩、横溝正史などの影響を受けた若い作家たちが、猟奇的な殺人事件、奇想天外な設定とトリック、それに臨む常人ばなれした探偵たち・・・といった華やかなミステリを再開花させた一連の作品は「新本格ミステリ」と呼ばれました。

この映画で、いきなり大富豪が背中をナイフで刺されて殺され、そこには意味のわからない血で描いた模様がある・・・という出だしで、ありゃ~こりゃ、新本格ミステリみたい・・・と思ったら、最後までそれは貫かれていて私好みですね。

こういう事件と謎解き・・・っていうのはもうファンタジーなんであります。

そして、事件に全く関係ない2人の若者、隠しカメラをあちこちに設置してそれをネットで配信するという怪しげな商売をしている江口洋介と安藤政信が、そのカメラに、被害者の養子である宮崎あおいが映っていることから事件とつながりを持つようになります。

そしてもうひとつのキーワードは、共感覚と呼ばれるもので、文字や数字などが普通の人とは違う見え方をするという感覚を持っている人、です。

江口洋介扮する新介はこの共感覚の持ち主。でも、あまり新介はそのことについては語らない。相棒の貴史(安藤政信)は、どちらかというとちょっとオマヌケでそういう所には鈍感な青年です。

そしてこの2人に仕事を依頼しているヤクザさんが、鳥肌実、通称、紺ちゃん。

事件の成り行きも面白いのですが、私はこの江口、安藤、鳥肌の3人の掛け合いみたいな会話が好きですね。

江口洋介は、相変らずといいますか、自信たっぷりの兄貴で、安藤政信は、子犬みたいな無邪気さを持っている。その2人に紺ちゃんが混じると不思議な絵になる、というのがいいですね。

ヤクザのくせになんだか、ぺなぺなの鳥肌実と「ねぇねぇ、紺ちゃ~ん」と平気で話かける安藤政信の2人・・・後半にかけての鳥肌実と安藤政信の関係の変りようがとてもいいですね。

鳥肌実は、頭と手と足がいつもバラバラに動いているようで、邪悪なようでいて妙に小心者、みたいな雰囲気を持っている貴重な人。

江口と安藤が拾った少女、事件の鍵を握る麻里という少女が宮崎あおい。

麻里はほとんど口を聞かず、何を言われても答えないし、何がしたいのかもわからない。

そして、事件を追う警察が石田ゆり子、事件の背後で何かを動かしているらしい通称、ピカソという謎の人物が迫ってくる。

そして、じわじわと出てくる松田龍平。

宮崎あおいと松田龍平はどちらかというとあまりしゃべらない方が絵になると思うし、逆に江口洋介は兄貴分でぶいぶい言っていて、安藤政信はおとぼけさん、という役者さんのいいところを上手く引き出していると思いました。

警察の石田ゆり子は、『ブレイキング・ニュース』のケリー・チャンのような、迫力さと強引さというのは欠けているのですが、本当だったら探偵役になる石田ゆり子はあまり出さない、というのもいいです。ばりばり、謎を解いてしまわれたら困るのだ。どこまでも混然としていくのがミステリの醍醐味です。

安藤政信が、宮崎あおいを見て、「か・わ・い・い~~~~」ってぷるぷる身震いするところとか、「君の目ってビー玉みたいだね」とぺらぺらと言ってしまう、子犬のようなキャラクターがとても軽くていいですね。それが無理してしまうとこうなりますか・・・という。

反面、宮崎あおいは、本当にビー玉のような目をしているけれど、無表情で猫のよう。

謎解きがどうのこうの、というよりもこの映画の新本格ミステリタッチのような雰囲気が楽しめたのでした。

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