プライドと偏見
Pride and Prejudice
2006年2月15日 有楽町 有楽座にて
(2005年:イギリス:127分:監督 ジョー・ライト)
この映画を観たあと原作の『自負と偏見』ジェーン・オースティン著、中野好夫訳を読んだのですが、この映画とても原作の世界をよく出していると思いました。
原作は、本当に会話の多い文体でほとんどが女同士のおしゃべりが続いたりしますが、そこをよく脚色して、原作通りの世界を作り上げたなぁ、と感心しました。
この映画の冒頭、主人公のエリザベス・ベネット(キーラ・ナイトレイ)が本を読みながら歩いている所をカメラはゆっくりと映し、そしてその家の様子を映します。
ここで、エリザベスの家は、貴族ではない、地主ではあるけれども、身分としてはそんなに高くない家なのだ、ということがよくわかります。
家の敷地の中に豚を飼っていて、家の様子、そして着ているドレスの様子からして、そんなに身分は高くない・・・ということが一目でわかるのですね。そこに感心してしまいました。
この映画で重要なのは身分とそれに見合う品格、それが合致して初めて、恋愛や結婚といったものが成立する、という大前提であり、当時は女子には遺産相続権がないというしきたり。それ故に起こるラブ・アフェアの数々なのです。
このベネット家というのは、隣のお屋敷に越してきたビングリー一族とその友人、ダーシーとは「身分が違う」
舞踏会も、どちらかというと田舎風の舞踏会で、優雅というより、楽しく踊る、という雰囲気を出しています。
陽気できさくなミスタ・ビングリーは、楽しむけれども、他のビングリー一家とダーシーは「田舎者たち」という軽蔑のまなざししか向けないのです。
さらに、その身分の溝はますます明かになっていきます。陰湿で高慢なダーシーに「お宅のご家族、特に父上、母上には品がない」とはっきり言われて、プライドの高いエリザベスは憤慨する反面、本当に品がない・・・と認めざるを得ない悔しさ・・・のような複雑な気持ちが出てきます。そこが重要なのだと思います。
そして映画ではあまり出てこないのですが、ミスタ・コリンズという牧師が、遠縁の男子でミスタ・ベネットの土地を相続するのだから、娘5人の内誰かが自分の妻になって当然という態度でしゃしゃり出て、エリザベスはきっぱりその「なれ合いの求婚」をはねつけるのです。
ミスタ・コリンズがベネット家に夕食に招かれた時、「どのお嬢さんが料理をしたのでしょうね?」と聞くと、ミス・ベネットは、むっとして「家には料理人がおります」とぴしゃっと言う所など、上手いです。(ここは原作でも辛辣なやりとりになっています)
ミスタ・コリンズはつまらない男で、家をみくびっている・・・という部分がよく出ている所です。
父を演じたのがドナルド・サザーランドで飄々とした不動の父、そして品のない身勝手な田舎者丸出しのベネット夫人がブレンダ・ブレッシン。
このブレンダ・ブレッシンが良かったです。
マイク・リー監督の『秘密と嘘』で、自分の秘密と嘘から、おろおろしてしまってしゃべりまくっていたお母さん。
本当に「周りが辟易する品のなさ」全開。そりゃそりゃうるさいおしゃべりです。
また、キャサリン夫人という貴族の夫人が、ジュディ・ディンチ。上流階級というのは傲慢なものだ、というのを体現しているようなお姿。
『ラヴェンダーの咲く庭で』の甘い役よりずっと貫禄があっていいです。
姉、ジェーンは人のよいおとなしい美人だけれども、妹のエリザベスは溌剌としていて、口が達者で、相手がどんな身分の高い人でも知性とウィットでやりこめる頭の良さ・・・その反面、生意気という目で見られているというのもよく出ていました。
これが18世紀の物語だと思えない程、今でも通用する「自負心と偏見」から来る人間関係の難しさ。そしてこれは会話を通して、誤解を解き合い、歩み寄っていくという、ただの恋愛話とは思えません。全ての人間関係に通じる「自負心」「虚栄心」「偏見」だと思います。
映像としてとても綺麗な映画な事は確かですが、それだけではないと思います。深い人間観察の描写に気がつかないで「単なる恋愛話」で一括りにしてしまうにはもったいない贅沢で知的な映画です。
衣装などもとても凝っているのですが、カメラ・ワークが舞踏会などなめらかに動く人々を動きながら映す・・・という上手さも良かったです。
夏目漱石が『文学論』の中でこの本の冒頭の部分を絶賛した・・・というのは「独りもので、金があるといえば、あとはきっと細君をほしがっているにちがいない、というのは、世間一般のいわば公認真理といってもよい。」という出だしです。
原作を読むと、エリザベスはキーラ・ナイトレイはちょっと綺麗すぎるような気もしないではないのですが、目が綺麗で活き活きとしている、という描写は成程、と思わせるものがありました。
ジェーン・オースティンの原作では『分別と多感』が『ある晴れた日に』という映画になっていて、これもとてもいいのですが、ここで「分別」の姉を演じたエマ・トンプソンの名前がSpecial Thanksの一番最初にクレジットされていました。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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