ホテル・ルワンダ

ホテル・ルワンダ

Hotel Rwanda

2006年2月3日 渋谷シアターNにて

(2004年:南アフリカ=イギリス=イタリア:122分:監督 テリー・ジョージ)

ストレートで真摯で真面目な映画です。

もう真っ向から勝負してます!っていう2時間です。

この堂々としたたたずまいがいいですよ、この映画。変な小細工せずに堂々と内戦とそれに巻き込まれた人々をドラマにします。

ドラマチックは色々ありますが、中国映画『芙蓉鎮』に並ぶ、正々堂々のドラマ映画だと思います。

『芙蓉鎮』は文化大革命、この映画はルワンダの内戦と虐殺という、人間がどうしようもない外的な暴力に巻き込まれてしまう様子、それに耐え抜き、生き抜くという姿をがっちり見せます。

『芙蓉鎮』は中国の中の世界でしたが、この『ホテル・ルワンダ』は外の世界、外国が入りこんできて、勝手に引き上げてしまう・・・そんなワールドワイドな視点をもっているというのが壮大です。

しかし、焦点があてられているのは、ベルギー資本の高級ホテル、ミル・コリン・ホテルの支配人、ポール・ルセサバギナという1人の男性です。いつも清潔なスーツで、てきぱきとホテルを仕切る様子が、この人の頭の良さ、センスの良さを体現しています。

ポールを演じたドン・チードルが、凄いです。これは実話で、ご本人がスーパーバイザーとして参加しているのですが、ご本人はもっと体格が良いけれど、ドン・チードルはどちらかというと細身でしなやか、といった感じです。

海外のVIPが常に利用するような「外国人向け」ホテル。支配人として、たくさんのコネを持っています。

暴徒であふれ、暴力が横行する中で、知恵とコネで生き抜いていくという頭脳戦が出来る人物。

内戦の勃発というのが、いきなり、なのですね。

最初は楽観的なポールもだんだん追いつめられて行く様子が、これでもか、これでもか・・・と。

その急激なエスカレートぶりっていうのが、スピーディで、迫力。

家族も大事にしているポールはホテルも大事だが、家族も大事・・・しかし、妻は内乱で虐殺の対象となっているツチの人間。

この映画は、「怒り」の映画です。

本筋はドン・チードルのホテル支配人なのですが、内戦の「平和維持」の為に来た、国連軍の大佐がニック・ノルティ。

あくまでも「内戦」なのですから、外国が下手に手を出せなくなってしまうのを歯がゆく見ている。

そして、ジャーナリスト・カメラマンのホアキン・フェニックス。

ルワンダの虐殺の事実をカメラにおさめてしまったことから、後に引けなくなってしまう。

取材で、対立しているフツとツチってどう違うの?という素朴な疑問を、投げかけますが、ベルギー人が植民地化した時に、ベルギー人が分けただけで人種は全く同じなのです。

そして、内戦がひどくなると、まず、外国人はルワンダを離れるということになりますが、ホアキン・フェニックスは、後ろ髪を引かれる思いで強制帰国のバスに乗りますが、大雨で、高級ホテルだからボーイが傘を差そうとすると「傘なんていらない!恥ずかしい!」と吐き捨てるように言うのですね。

私はこの「恥ずかしい!」という怒りが、この映画の芯の一つのような気がします。

いくら虐殺の事実をニュースで流したとしても、よその国の人は「大変ね」でさっさと夕食に戻ってしまうのさ、と言う。

外国にすがらなければならない事情があるのに、見捨てる「外国」

自分の都合の良いように植民地化して放り出す「外国」

そんな外国人のひとりとして、こんな事になってしまったことに怒りで煮えくりかえっている外国人もいる、という良識の部分です。

しかし、ひとりの力は結局無力であることへの怒り。ホアキン・フェニックスの場面ってあまりないのですが、最初は疑問だった目がだんだんギラギラしてくるのです。そこら辺も良かったですね。

それが、残された人々のドラマにつながる訳です。

映画はドラマ性を重視していて、ルワンダの虐殺の事実の結果というのは字幕で終わらせているような所があって、何人虐殺された、という数字もいい加減だと思います。本当はもっと犠牲者はいたのだと思います。

それを映画という形で、訴えようとした作り手の志が高いのです。

この映画は日本での上映署名運動が起きて、公開され、公開映画館が増えつつあります。

観てみるとそれだけの力のある映画なのですね。

残虐なシーンよりも、ドン・チードル達の行動を重視した、先が読めないサスペンスフルな展開も見事です。

ドキュメンタリー性はあえて薄くしているそうですけれど、世界でこういう事実があった事を知らない、というのは恥ずかしい事なのだ、と見終わったあとつくづく思ってしまうのでした。

そして映画としてのドラマというもののあり方も考えさせられますね。事実をどう「ドラマ」にして観客に見せるか・・・その辺の呼吸がよくわかっている映画です。 

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