イノセント・ボイス 12歳の戦場

イノセント・ボイス 12歳の戦場

Voces inocentes

2006年2月1日 シネスイッチ銀座にて

(2004年:メキシコ:112分:監督 ルイス・マンドーキ) 2005年ベルリン映画祭最優秀作品賞受賞(児童映画部門)

 この脚本を書くことは、今までの人生の中で最も大きな挑戦でした。葬り去った過去を綴る作業だったからです。

 人間は嫌なことは隠して、美しいものだけ見ようとします。それは人生を生き抜く上での一つの方法なのです。

 過去を掘り返すことは、あのとき抱いた罪悪感を直視することを意味していました。~中略~しかし私たちはそれらに向き合う勇気を少しず 見つけていこうと思うのです。なぜなら、辛い思い出から抜け出す課程を得ることで、平穏で、より良い、力強い人生への扉を開くことがで  きるからです。勇気を持った時、私たちはもはや”犠牲者”ではなくなるのですから・・・。

これは、脚本を書いたオスカー・トレスさんのメッセージの一部なのですが、自分自身が経験したエルサルバドルの内戦の中での自分の過去を書くのは辛いことだったと思います。

しかし、これが映画というもので表現されたとき、その辛さはまた違った一面を見せる、とも思うのです。

悲惨さをひたすら訴える、というより1人の少年が見つめるものを描くということで、「戦争している大人」の視線ではなくしているので、とても無垢な雰囲気が全体を貫いているのでした。怒りの鉄拳振り回している、という映画ではないのです。また、ひたすら子供がかわいそう・・・というウェットな目線もないです。

この映画で一番、迫力なのは突然始まる銃撃戦です。

家族で夕食をとっている時、学校で授業をしている時・・・そんな私たちが普通にしている生活の一場面なのに、突然バリバリバリッと銃撃戦が始まる・・・というのが、衝撃的。

なんの予告もなくいきなり始まってしまうのです。それを逃げまどう姿をカメラはリアルにとらえる。

主人公の男の子は、まだ11歳ですが、政府軍とゲリラ軍の戦いの中で政府軍がとったやり方、というのは男子が12歳になったら強制的に徴兵する・・・という方法。

子供をゲリラ側にさせない、という方法です。

しかし、この徴兵というのが、ほとんど人さらい。だから、12歳になるというのを男の子はとても恐れている。

子供だから、何もわかっていないか、というと、そんな事はないのですね。子供をなめている大人の愚かさ、というのがこの映画のベースにあるような気がします。

徴兵されても、気持ちはゲリラ側にある、というのが葛藤になってしまっています。政府軍に対する嫌悪というのはしっかり子供にも伝わっています。そして、自然と生き延びよう・・・という思惑につながっていきます。

政府軍がやってきて、子供を連れて行こうとしても、見事にちょろちょろちょろちょろと逃げる子供たちのしたたかさ。

その逃げ方の上手さに必死な中でも、政府軍の上を行く賢さとユーモアがちらり、と見えるのです。

主人公、チャバを演じた男の子は、よくよく見るととても美しい顔立ちをしていて、黒い瞳がとても綺麗で、将来ハンサム決定、みたいなのですが、口を開けると下の歯に隙間があったりして、そこら辺のちょっと間の抜けた感じがとてもいいです。

表情が豊かで、笑う時は本当に楽しそうで、内戦がどんどんひどくなるのを、じっと見つめている黒い瞳がとても力強い。

そして母を演じた女優さんの太い二の腕が、いいですね。まだまだ、赤ちゃんとも言える子供を含めて、3人の子供をひとりで育てている、母の力強さがこの太い二の腕によく出ています。

映画は雨の中を連行される主人公から始まりますが、雨の中でつぶやくひとことが「喉が渇いた」である、というのがとても印象に残っています。本当に経験した人でないと出てこない台詞でしょう。

他の子供たちや、ゲリラ軍の叔父さん、教会の神父さん・・・みんな、いい顔をしていて、この映画がとても高慢または感傷的ではなく、高尚に思えるのは、この映画に出てくる大人たちが皆、真摯だという描き方をしているからかもしれません。

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