死者の書
2006年3月29日 神保町 岩波ホールにて
(2005年:日本:70分:監督 川本喜八郎)
原作の折口信夫という人は、作家というより民俗学者、国文学者、また歌人として有名です。
そんな学者の折口信夫が、小説という形で書いた『死者の書』
この映画を観てから、原作本を読んだのですが、うわ、読みにくい。なんというかいびつでゆがんだような、会話文もなにもないような不思議文体です。
しかし、この平安の物語、当時の言葉や漢字の読み方などを重視しているので今の時代とは、全く違う、私はエキゾチックなものを感じました。これを人形ストップ・アニメーションで作ろうというその気持がまず、凄い。
この物語の背景となる説明映画つき。物語は何の説明もありませんから、いきなりだと何が何だかわからないのです。この説明映画が寺田農さんのナレーションでよかったですね。ほうほう、なるほど。
物語を簡単に述べると、持統天皇が自分の息子を皇位につけたいがため、継子である才能豊かな大津皇子(おおつのみこ)を謀反の罪に追いやり処刑してしまう。処刑の直前に大津皇子が見た美しい女性、耳面刀自(みみものとじ)。
二子山に葬られた大津皇子は、その耳面刀自の面影を想うあまり、成仏できない。
そして五十年後、藤原家の美しく若く才ある娘、藤原南家郎女(ふじわらなんけのいらつめ)が千部の写経をしている時、二子山の向こうに神々しい若者の姿、そしてそれが仏の姿に変わるのを見る。
郎女はとりつかれたように、その御仏の為に蓮の糸で機を織る。そして出来上がった布に一晩で曼荼羅の絵を描き上げる。
それが、今も當麻寺にある當麻曼荼羅という伝説です。
う~む。古代にじかに触れてしまったような。大津皇子の話は実話であり、當麻曼荼羅の方は、霊験伝説のようなものですね。
それを合体させたのがこの物語。
川本喜八郎さんの人形は能を想わせる冷たい肌をした人形です。だからこそ、この大津皇子が生々しくなく(いわば怨霊ですから)、そしてそれを鎮める巫女の役目をはたす郎女がさえざえとして、美しく清らかです。
着物の美しさと細かさ、そして動作、特に写経する所なんか、もう、もの凄く精巧に出来ています。
また、水音を「した、した、した」と表現するような独特のナレーションを岸田今日子がしていて、映画は原作通りの展開ではなく、上手く分解、再構成したものになっていますが、原作のムードをきちんと伝えている。
平安時代のお姫様、郎女の声は宮沢りえ。もう外に出ないし、人とも会って話すことなどない貴族の姫。
「そこの人。ものを聞こう。」なんて言い方は、滅多に出来ない言い方ですが、宮沢りえの声がまた、人形の清らかさいにぴったりでした。
他にも大伴家持に榎木孝明。物語の行方を傍観する役目の人です。
この映画は、資金の集め方が、フィルム一コマ分の資金を募集する、ということで、たくさんの人が一コマ分の資金を出しています。
中には有名な俳優や学者、作家、イラストレーターなどの名前もあり、私も参加したかったなぁ。
こういう重要文化財のような映画ってとても大切なんですよ。古代というのはもう日本人が忘れかけているものでしょう。
それをきちんとした形で残す・・・折口信夫が小説という形をとったのもそういう理由だし、それを人形アニメで30年かけて作り上げた作家の志の高さを日本人はきちんと認めるべきかなぁ、と思います。
更夜飯店
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