かもめ食堂
2006年4月11日 シネスイッチ銀座にて
(2005年:日本:102分:監督 荻上直子)
荻上直子監督の3作目。
荻上監督は、『バーバー吉野』といい『恋は五・七・五!』といい・・・「ズボンをはいた女の子」なんですね。
描く世界がとてもさばさばしている。男性でもなく女性でもない「ズボンをはいた女の子」
だから、男性監督が女優さんを綺麗に可愛く、男性の理想像のように撮るというのはなく、特にこの映画では、「中年独身女性たち」が主人公。
明かに40代以上である、女性の良さというものを料理、食堂というもので上手くブレンドしてあります。
40すぎて独身・・・何故、小林聡美、片桐はいり、もたいまさこのフィンランドに集まる3人が、独り身なのか、はっきりとは出てこないのですが、(もたいまさこは、老いた両親の介護に追われてやっと解放された身であるらしい)言い換えれば「人並みの結婚が出来なかった女性たち」しかも、「1人でフィンランドに旅行してしまう女性」
自然に見えても実はこの設定、かなり特殊な設定なのです。
それを「変な人」とは描かずに「中年女性の夢見るような自由の身」という姿に変換させている、そのさせ方が上手いのです。
いつまで滞在するんですか?と聞かれて、いや、まだ決めていないんです。とすらっと答えられるし、金銭的にあくせくした所もない。
男がどうだこうだ、子供がどうだ、家族がどうした、というしがらみが全くないまっさらな自由。それを「寂しい」ではなく「自由」に見せる。
20代、30代というのは結婚子育ての時期かもしれませんが、それがなかった女性というのはどうあるべきか?なんて所はしみじみしましたね。ある本では、「子育てが終わった女性は、その賢さを社会に還元する時期なのだ」と書いてありましたが、ひとりでフィンランドでかもめ食堂を経営している小林聡美には、そういう「賢さと余裕」が見えるのです。
また、片桐はいりともたいまさこにも、どこかしら余裕が見られる。あくせくしていない。焦っていない。そんな気持よさ。
原作を担当したのが群ようこだというのも、独身中年女性ならでは、の自由と賢さをきちんと出せるからでしょう。
じゃ、この映画は男性向きではないですか?というとそんなことはない、子供から大人まで男女関係なく楽しめるいい映画なんです。
そして、小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ・・・の3人の会話の間が絶妙。脚本が上手いです。
ワラ人形作って釘うつなんて、やったことないですよねぇ~~~、うんうん・・・・・え?(・・・やったこと、あるのか・・・それが、誰かは映画を観てください)
3人の女性のしゃべり方もそれぞれで、私は妙にゆっくりとしたもたいまさこのしゃべり方が好きです。言葉が通じなくても「わかってしまう」という・・・森に行くシーンがとても美しくて、この映画は映像がとてもクリアなんですが、一番のその良さが出ていた森のシーン。
映画の中で女性が料理を作るというのは結構、多いのですが、『三年身籠る』の豪華な手料理は逆に豪華すぎてヒロインの頑なさを見事に表現していました。この映画で、小林聡美が作る料理は、おにぎり、卵焼き、シナモンロール・・・といった親しみやすい料理です。
『博士の愛した数式』で、家政婦の深津絵里も一生懸命料理しますが、「料理演技・・?」とつい思ってしまいましたが、この映画の料理の自然さ、親しみやすさ、手際よさと余裕というのも、この映画の上手い味付けのひとつです。
それから、かもめ食堂のお客、第一号、日本かぶれというか親日家というか、オタクというか・・・フィンランド人のトンミ(漢字名:豚身)という少年?青年がよかったです。
いつも、いる。猫のようにいる。いきなりニャロメのTシャツ。そして小林聡美にガッチャマンの歌を教えてくれろ、と言う。だれだ、だれだ、だれだ~~~????その先が出ない、その事から片桐はいりと出合うというのも、私達の年代にはよ~くわかる感覚。
片桐はいりが、「豚身、たまには友達連れてきたら?と・も・だ・ち・・・・やっぱり、いないのか・・・」って言う所が笑ってしまいますが、友達いないような青年でも、この余裕ある女性達の中では、嬉しそうに居場所がある、という心地良さも感じられる、トンミの存在。
この映画の不自然なんだけど、とっても自然にさばさばしている。気持よい女性たちの味のあるような、笑えるような、共感を呼ぶような会話。今まで、ありそうでなかった類の世界かもしれないです。
荻上直子監督は、着実にステップ・アップしていると確信いたしました。映画のラスト、幕切れがとても粋。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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