嫌われ松子の一生

嫌われ松子の一生

2006年5月28日 TOHOシネマズ市川コルトンプラザにて

(2006年:日本:130分:監督 中島哲也)

大好きな『下妻物語』の中島監督が次に映画化する、というので原作を先に読んだのですが、一体どういう映画になるか想像がつきませんでした。

男に依存し、裏切られ、人生を終えてしまう松子と、東京でだらだらしている甥の笙という青年が伯母の人生を追うごとに成長していく物語でしたが、これ、まともに忠実に映画化したら完全に『ダンサー・イン・ザ・ダーク』になります。

しかし、この映画は冒頭、『風と共に去りぬ』や『オズの魔法使い』・・・といったカラーの映像を持ってきます。

たしかに松子、という女性は、男に翻弄され、何故か駄目な男としかくっつかない・・・この映画は原作の説明の部分をはしょってその転機をつなげている部分と、甥の笙(瑛太)が松子に興味を持っていく課程を同時進行させている、という点で一番感心したのは脚色力。

松子は男に裏切られ、去られる度に「私の人生はこれで終りだと思いました」・・・という。

しかし、もともと真面目で頭がよく、手先の器用な松子はそれなりに生きる道を見つけていく。

『オズの魔法使い』のドロシーが、黄色いレンガの道をたどって行くように・・・実際、映像では赤い靴をならす場面も出てきます。

たとえそれが不倫であっても、楽しい妙に明るいミュージカルにして、生活はバラ色・・・と水曜日はすばらしい~と歌うのですが、反面、水曜日しか楽しくないという皮肉。

男だけが悪いのか、というと松子は男を駄目にしてしまう女性なのかもしれません。そして何よりも家族に拒絶されたことが松子の人生に影響を与えている・・・というの繰り返されますがそれがしつこくないのですね。父(柄本明)、弟(香川照之)、妹(市川実日子)この3人と甥の笙は常に松子にとってのキーパーソン。

何か都合の悪い事があって、誰かのせいに出来れば、精神的にどこか逃げ道があって楽。でも松子はそれが出来ない。

「なんで?なんで?なんでなの~~~?」という自分への疑問になってしまう。

松子が悪い、男達が悪い、家族が悪い・・・そういう見方しか出来ないとこの映画、訳わからなくなりますよ。楽しめないと思うし。

あくまでも作り込んだ世界の中で、人間の虚と実を上手く、描き出す。そういう所は他に例をみない強烈な個性になっています。

つきあう男達のキャスティングが乱暴といえるほど、豪華なのですけれど、松子がどんな状況でも画面の隅には色々な花が咲き乱れている。そして松子の妄想ともいえるシーンは、ミュージカルであったり、ディズニー映画の楽しい風景のようであったり、妙にデフォルメされて、ファンタジックなんです。

不幸、不幸・・・と言ってしまえばそれまでなのですが、不幸にも色々ある、それを駆け抜ける松子。

中谷美紀は、お人形さんのような女優さんだと思っていましたが、この映画では、華やか、真面目、やけっぱち、うきうき・・・色々な顔を見せます。

原作では、ソープ嬢になるあたりと、刑務所に入るあたりが大変細かく描写しているのですが、その部分を歌、ミュージカルで描いてしまうという感覚が人並みはずれていると思う、凄い所です。松子という人物がどんな人物なのか・・・笙は、伯母さんがいるなんて最初は全く知らなかったのですから、一緒になって松子、という女性の短い一生を追う事が大事なのだと思います。

また、この映画の見所は、昭和から平成にかけての日本の様子がきちんと描かれていること。昭和30年代から平成まで・・・日本の流行や文化の移り変わりも細かく背景として描いています。

大阪の万博の太陽の塔のキーホルダーというのは、原作には出てこないのですが、こういった細かい作り込み・・・どこまでわかるか・・またこれも、原作にないのですが、世捨て人になったも同然の松子が光GENJIに夢中になり、また幸せな気持を持つ・・・あたりは原作にないのですが、松子は、目の前にあるのに手に届かないものを夢見ている・・・そんな女だけでなく男も大人も子供も・・・人間の持つ、「楽しみへの欲」を持っているのだ、というのがしみじみとしました。

私が映画を観るのも、趣味の楽しみを持つのも、松子と同じ。

とにかくスピーディな映画でもあり、観ている間はあれあれ・・・と目が離せないし観るものに有無を言わせない強引さがあります。

それを、面白い、ととるか、やりすぎ・・・ととるか、はっきり観る側の印象、感想、感じ方が別れる映画だとも思います。

しかし、見終ってみて、原作を思い出したりする時間が出てくると、この映画の世界、脚色の力、映画という虚の世界の作り込み方の上手さ・・・そんなものが自分の中でじわじわと湧いてくるのでした。中島監督って、凝り性で、繊細で、自信があるんだろうな、と想像します。

ラストを原作をはしょって、笙の一言!で表してしまった所もいいですね。

印象に残った役者さんはたくさんいるのですが、伊勢谷友介、黒沢あすかの、なにかふっきれたような演技が特に印象に残っています。

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