ブロークン・フラワーズ
Broken Flowers
2006年5月3日 日比谷 シャンテシネにて
(2005年:アメリカ:106分:監督 ジム・ジャームッシュ)
2005年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞
もし、20年前につきあっていた男性が、いきなり、ピンクの花束持って、「やぁ」とか「こんにちは」とか「Hello」とか現れたらどうします?
私だったら、「げっ」と、絶句して、むしろ迷惑困惑すると思うのです。
若い人が、一年前に別れた彼・彼女に出会ってしまった、胸キュン(古い表現)・・・ではく、中年になって20年ですよ。胸キュンなんてないですよ。困惑以外何物でもないのです。
ドンという中年男(ビル・マーレー)はそれをやってしまうのです。
コンピューター事業に成功して、金には困らないのですが、昔のまま結婚なんて事は考えずただ、ガールフレンドを持つだけ・・・という中年男。コンピューターの事業をしているくせに、パソコンは持っていない。家の中では、ジャージ姿でぼおっとテレビで映画なんか観ている。
きっかけは、ピンクの匿名の手紙。「あなたの息子がいます。別れてから妊娠に気がつきました。19才になります」
それを知ってしまったのが、親しくしている隣人のウィンストン。探偵ものが好きなウィンストンは、こりゃ、いいや、早速捜査に行きなさい。
と20年前の恋人達の今の住所などを調べ上げ、旅のお膳立てを、てきぱきとやってしまう。
心配しているというより、ドンをサカナにして、ウキウキと楽しんでいる様子。これがよかったですね。
ドンと正反対で、子だくさんの家庭、パソコンに夢中で、仕事が忙しいなんていいながらも、見事な仕事ぶりです。
そして余計な推理や提案を押しつける・・・「キーはピンクだ」「ピンクの花束を持って行け」「タイプライターで書いてあるから、タイプライターを探せ」・・・・やっぱり楽しんでいるだけだな。
ドンことビル・マーレーは、終始、ぶすっとしています。ポーカーフェイスなのか、憮然としているのか、あきらめているのか、あきらめきれないのか・・・何かあっても眉をひく、と動かすだけ。
嫌なら行かなければいいのですが、でも、4人の女性を訪問する。口では嫌だ、嫌だ~~~とウィンストンに言うけれど、なんとなく「ちょっと会いたい気もする、恋人出ていってしまったばかりだし、もしかしたら・・・?」というちょっぴりスケベ心が働いているのが、表情に見え隠れして可笑しい。また、旅の途中で出合う若い女の人を、ちらちら横目で観察したり・・・まだ、懲りない人でもあるのですね。
しかし、現実はそんなに甘くない。もう結婚して子供がいる女性、または離婚してもう結婚はこりごり・・・という女からしたら迷惑なんです。
そして、子供がいるかどうか・・・確かめたくても、なんとも気まずい会話で、はっきりとは聞けない。
ピンクの花束は、訪問する女性によって花を変えています。カーネーション、バラ、ユリ、野の花、キクとトルコキキョウ・・・そんな所で、ドンの昔の女にもてた・・・という過去がわかるという上手い小物使いです。
ジム・ジャームッシュ監督の映画は、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のデビューから一貫して、インディペンデント・・・ハリウッド娯楽映画から背を向けています。今回、訪問する女性たちが、シャロン・ストーン、ジェシカ・ラングといったハリウッド女優を使っていても、見事に、間の悪い「・・・・」という会話。ぺらぺら喋る女性あり、すぐにハダカになっちゃう女の子あり、露骨に嫌な顔する女性あり・・・・様々な女性との「・・・・」な会話。
そして、肝心の息子とはどうなのか・・・となると、多分今まで、若い男の子など目もくれなかっただろうドンが、道で見かける20才くらいの男の子にカメラを通して、目がいってしまう。「もしかしたら、息子かも・・・」
不思議な父性に目覚めてしまう、中年男の表情を無表情で演じきったビル・マーレーって上手いです。
私は家のソファにうつぶせになって寝ている姿が、キュート、なんて思いました。
ただの女好きではなくて、女にもてる人・・・・それは年齢や容姿には関係ないのですってことがよくわかった次第。
そしてこの映画は、手紙、タイプライターといった、電子メールが当たり前の世界になった今、昔が甦ってしまう・・・そんな使い方がいいです。
ジム・ジャームッシュがピンクをキー・カラーにするというのが驚きですけれど、描いている世界はなんとなくモノクロなのでした。
そして、この映画の音楽と映画の幕切れが、不思議としあわせな余韻を残します。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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