明日の記憶
2006年6月27日 錦糸町楽天地シネマにて
(2005年:日本:122分:監督 堤幸彦)
49歳のまだまだ働き盛りの男性が、突然、若年性アルツハイマーになってしまうという悲劇ですが、あまり感傷的にごてごてにしていない所が良かったですね。むしろ、すんなりしているのです。とてもわかりやすい映画なのですが、『博士の愛した数式』にしても、こういう題材を突き詰めて、突き詰めてとことん描くではなく、あからさまを嫌う割には、わかりやすいを求める日本の映画の観客にもすんなり受け入れられるように作られているのがこの映画の特徴かと思います。
主人公の佐伯(渡辺謙)は、広告代理店の部長です。
若い部下をばんばん叱責して、仕事一筋。でも、頭痛がする、物忘れが多くなる、体がだるい・・・そんな「ちょっと調子悪いな」が、実は重大な病気だった、とわかるまでのテンポはいいです。
広告代理店というのは、おしゃれのようなイメージがありますが(それは多分、ホイチョイ・プロダクションのせいだと思う)実際は、クライアントの「企業宣伝」で、お客様命!なんです。
そのお客様が、香川照之で、佐伯の事を「佐伯選手~~~」なんて呼ぶ、なんだかいやらしいなれなれしさに頭ぺこぺこ下げる様子、また、部下の1人、田辺誠一が佐伯に対して、憎悪のような反感を持っているといった人間関係。
この病気は、物忘れはひどくなるけれども基本的な性格まで変わってしまう訳ではないのです。
だからプライド高い人は、どんどんプライドを傷つけられていく。佐伯もそんな人です。
主治医になるのがミッチーこと、及川光博。まだ、若い医者に、小学生の知能テストのようなテストをさせられて、でもそれが出来ない・・・・そんなプライドが傷つけられて、「お前はいったい、いくつだっ!」と怒り爆発させる所と、それに冷静に対処する医者。
病気を隠して、無理矢理仕事を続けようとして、得意先への道がわからなくなり、さすがに部下たちも、部長はおかしい・・・と気づかれてしまうことへの恐怖。
そして、同期であるけれど、今はより出世して室長になっている上司、遠藤憲一から、とうとう退職を迫られる。
これ、全て、「プライドが傷つけられる恐怖」なんです。
しかし病気には逆らえない。妻(樋口可南子)は、そんな夫を支えようと、そして家計も肩に重くのしかかってくる。
仕事をしようと友人(渡辺えり子)に頼んでも、「あんたみたいな家にいた人が急に社会に出て働こうなんて。プライドばかり高くて何も覚えられない。使えない」とはっきり言われてしまう。
プライドとの戦いなんですね。病気を受け入れる事をプライドが許さない、という事です。
それは、会社を辞めた佐伯が、陶芸をするようになって、陶芸教室の主人(木梨憲武)が、ちょっと甘く見て、小銭をちょろまかそう・・・とするのに気づいて、その陶芸教室を辞めてしまう・・・というエピソードにもプライドが出ていました。
渡辺謙の、だんだん憔悴していく表情が良く、なんとか辛抱しようとする樋口可南子の辛抱の限界と現実の受け入れの様子が、最後は誰が誰だかわからなくなってしまうという悲劇になっても、そこを上手くかわして説明する上手さがある映画。
私は、香川照之のべたべたっとした「佐伯選手~~」が、仕事の時は戦略のように見せていて、佐伯がプライドずたずた失意のどん底にある時に、いきなり「佐伯選手~~~~どうしたのよ・・・あなたじゃなくちゃ、やっぱりダメなのよ」って電話かかってくるタイミングにううって、救いのようなものを感じました。このとき、佐伯さん、ではダメで、あんなにいやらしいなぁ~って思った「佐伯選手」という呼び方が効果的に使われるというのが良かったですね。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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