初恋

初恋

2006年6月25日 シネカノン有楽町にて

(2006年:日本:114分:監督 塙幸成)

3億円事件の実行犯は18歳の女子高校生、宮崎あおいだった・・・という想定の話なんですが、宣伝や予告では、この「事件」を大きく扱っていたのですが・・・タイトルからして、「事件物」ではありません。

私は3億円事件の当時はまだ幼くて覚えていませんが、1975年の時効の時の騒ぎはよく覚えています。

それだけ「大きな事件」だったのでした。当時の3億円は今で換算すると30億円だといいますから。

しかも、その盗まれたお金は今だに一枚も使われていないのだそうです。

この映画は、そんな大きな事件を大々的には描きません。

舞台となる昭和30年代は、激動の時代。学生運動が描かれたりもしますが、映画のテンションは、ずっと盛り下がりっぱなしです。

意図的に抑えているのでしょう。

世間を驚かせた、事件の手際よさや、手口などは逆にさらりといとも簡単に描いています。

あまり綿密に計画をたてる、というよりも、主人公の高校生、みすずは、岸という大学生へのほのかな恋心から、その事件の実行を承諾し、言われる通りに行動するのです。

宮崎あおいはひたすら抑えた演技。

これはあおいちゃんならではのもう「特技」ですね。

家庭環境がよくない、母に捨てられて、叔母の家に世話になって肩身が狭く、居場所がない憂鬱さを常に持っています。

滅多に笑わない。口をきかない。そういう役は上手いです。他の女優さんには出来ない雰囲気を持っています。

しかし、宮崎あおいを見るだけで、ぐっとくる人は、満足だと思うのですが、言葉使いは現代風、セットや衣装の考証を苦心していて、なんとなく嘘っぽい昭和に見えます。

昭和を知らない人は、昔の話、のひとことですんでしまうのかもしれません。

映画は虚像だけれども、嘘の世界だからこそのリアリティが必要で、この映画の狙いはそのリアリティを出そう、としている所なのでしょう。

リアリティを狙っていないのならばそれはそれでいいのですが、狙いがはっきりしているこういう映画では、細心の心配りがどれだけ出来るかで説得力が違ってきます。温度を低くしたいのならば、とことん低くして、妙に熱い空気を入れたりしない方が私はいいと思うのです。

みすずと岸の部分は温度が低く、仲間達との事は温度を高く・・・そのちぐはぐささ故、テンションは低くなり、観ていて戸惑ってしまう。

もともとが、単独犯行のようなもので、複数犯ではなかったのだから、その仲間たちの描き方って難しいです。

ジャズ喫茶での仲間になる宮崎将、柄本佑、小嶺麗奈なども、事件、物語の核とはならず、曖昧なまま終わってしまうような印象が。

それから、宮崎あおいは、過去の映画では、他の役者さんのきらめく中で、静かに存在感を出す、というのがとてもいい役者さんなのですが、宮崎あおいが1人看板を背負ったような映画になってしまいました。

アイディアはインパクトあるし、バイクに乗っている時のみすずの晴れやかな表情などとても良いのです。

岸とみすずだけの物語でもよかったのでしょうが、そこに当時の若者像を盛り込もうという感じで、焦点がぼけてしまったような印象を受けました。

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