天上の恋人
天上的恋人
2006年6月14日 シネマート六本木にて
(2002年:中国:93分:監督 ジャン・チンミン)
第15回東京国際映画祭 コンペティション最優秀芸術貢献賞受賞
時代は現代なのでしょうが、特に場所はどこ、と明確には出てきませんが、中国の高い山々の間にひっそりとある村。
ここは、まだまだ、昔の生活がそのまま残っているような村です。
狭い山の斜面に畑を作り、牛や鶏を飼い、自給自足のような生活。もちろん車なんて入ってきません。
しかし、山を下り、街に出れば、色々なものが買えるようです。
映画は多分、下の街から流れて来たのだろう赤いアドバルーンが大写しになります。山奥の緑の村にまっ赤なアドバルーン。
そんな山奥の素朴な生活には、主人公の家寛(ジャクァン)役のリウ・イエはよく似合う。
子供の頃爆竹工場の爆発で母を失い、聴力を失うけれど、村一番の働き者。とにかく熱心に働く、働く。そんな姿が、わざとらしくなく本当に素朴な好青年。でも、家寛は、文字の読み書きが出来ない。
家寛の父は、銃の暴発で視力を失う。そして、その時、出合って家寛の家に住むようになった少女、玉珍(ユイチェン)が、ドン・ジェ。
玉珍は、たくさんの筆を持って岩場に文字を書いている。でも、何故か口がきけないのです。
目の見えない父、耳の聞こえない息子、口のきけない少女。でも3人の生活は穏やかで微笑ましく仲良く暮らしています。
でも家寛はやっぱり若者で、村の一番の美人さん、朱霊(タオ・ホン)の事が密かに好きで、好きでたまらない。
そんな家寛を黙って見つめる玉珍。玉珍は、家寛にとっては「かわいい妹」でしかない。
朱霊はおしゃれで、街で買ってきたらしい現代風の赤い服やワンピースにサンダルとか、ホットパンツとか・・・なんだか若者に自分のナイスバディを見せつけてるみたい。でも、素朴な家寛は、朱霊の事が大好き。
もう、家寛、リウ・イエの表情の豊かなこと。街でくじであたったという自転車を本当に嬉しそうに乗る。朱霊の気をひきたくて、あれこれ、アピールする家寛のなんともいえない素朴さが・・・でも朱霊は家寛のことは何とも思っていないのです。
そして、地味でも清潔感のある服を着て、おとなしく真面目に家事や仕事をする玉珍は、それをじっと見ているけれど、何も言えないというのがとてもつらいなぁ。
特に、字が読めないことをいいことに家寛が、朱霊への手紙を書いてもらうけれど内容は全然違う。素直に喜ぶリウ・イエの満面の笑顔と、手紙を読んで、「違う、違う、これは違うの!」と必死の表情で訴えるドン・ジェのやりとりなんか、もう、可哀想で切なくて。
好きな人からは想われず、想わぬ人から好かれているのにそれに気づかない。
そんなすれ違いが、イライラすることなく、とてもすんなりと綺麗に描かれているのがいいですね。
嬉しい時のリウ・イエの表情もいいのだけれど、がっかりしたときの顔。
しかも、夜に庭の水桶に沈んでいたりして・・・相棒の自転車まで水に沈めてしまうし。がっくり顔がまた、憂いあっていいのです。
家寛は、朱霊にどんな事があっても、その好きな想いは変わらない、という不変さが、後半どんどん出てきます。
ふられても、ひねくれず、朱霊の為なら何でもやる。人、良すぎ!でも、だからいいのですね。
この映画は、若者たちの恋愛模様がこうなりました、という着地点を意外な方へ持っていく。本当に天上的恋人になってしまうのでした。
監督は日本で映画を学んだそうで、製作は奥山和由。日本が製作にかかわっているのになかなか公開されず、特集上映の一本としてでしか公開されないのは残念。とても哀愁があっていい映画です。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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