ダメジン

ダメジン

2006年7月1日 テアトル新宿にて

(2006年:日本:98分:監督 三木聡)

 唐突で映画に関係ないのですが、三木聡監督のインタビューを読んでいたら、ある企画で「ダメな人を探そう」をやったとき、100人集めて、100脚の椅子を用意して、椅子とりゲームをやらせたら、3人が「椅子に座れなかった」そうです。

三木聡監督が、注目して描くのは、きちんと規則通りに椅子に座れた97人ではなく、何故か座れるはずの椅子に座れなかった3人だと思うのです。

 きちんと椅子に座れるのが当たり前な人は、座れなかった3人が全く理解できないと思いますが、それを「おもしろいっ」と受け取る人に、三木聡監督は、自分の世界を発信していると思います。

三木聡監督の作・演出のシティ・ボーイズのライブ(舞台)を観た時に、終わってからのトークで、大竹まことが「観た人の頭にさっぱり何も残らない舞台」と言っていました。

ですから、この映画も、是非、観なければならない、観て欲しい、感動すること請け合い、泣けます、文部科学省推薦映画ではありません。

別に観ても観なくてもいいと思います。観なかったからといって貴方の人生に何の支障もきたさないですよ。

今年から始まった、映画検定の問題にもまず、なりませんね。(映画を検定にして、級つける発想自体が、三木聡監督に関係ない世界)

 では、私はこのどうでもいい後にさっぱり残らないものに不満か、というと実は久々に感動してしまったのです。いや、感動なんて、曖昧な言葉は、違いますね。安心したというべきでしょうか。何が起きても不思議でない平和な世界なので。

タイトルはジョン・レノンの曲『イマジン』のパロディ、ダメジン。

決して駄目な人と決めつける映画ではなく、むしろ、ジョン・レノンが平和を願って歌った理想郷のあるひとつの形。

 出てくる人たちが自然にダメな人達なのですが、それに対して、なんとかしよう、とか、不満があるとかそういう力みはないのです。

「(働かないで)どうやって食ってるの?」

「いや、まぁ、それが、その、どうにかなっちゃうわけで」

「ふぅ~ん」

 3人のダメジン、リョウスケ(佐藤隆太)、カホル(温水洋一)、ヒラジ(緋田康人)の周りには、ちょっと変な人がいる。

かわいい、Oliveに出てくるような、一般人には着こなせないようなワンピースを着て、トルエンやってるチエミ(市川実日子)

テレビでは「トルエンやってバカになるんじゃありません。バカがトルエンやるんです」

何故か、突然、鍾乳洞に行こうと言い出す、ヤクザのササキ(篠井英介)

皆で行く鍾乳洞は、「日本で一番小さい鍾乳洞」(それって何処?)

3人が焼いて食べちゃった黒猫のサンディちゃん(ぬいぐるみ)の飼い主、猫じじい(笹野高史)

3人が家に遊びに行くと、風呂場の湯船でコーヒーわかしていて、窓を開けると「あっ!かまいたちっ!」と血がぴゅ~。

ゲシル先輩(謙吾)は、伝説を作りたい、が口癖。

インバさん(村松利史)は、いつも裸で、川につかっている。カホルは、「インバさんの下半身ってどうなってるの?もしかして、サザエの壺焼きみたいになってるのかな」

しかもインバさんは、す~っと水平に水面を移動するのです。(私はインバさんが好きです)

チエミにトルエン売っているのは、サンダル工場の社員、カズエ(ふせえり)とタイアン(片桐はいり)

カズエは、この10年、カホルを見ると跳び蹴りをくらわせ続けている。

トルエンやりすぎのチエミには、幻想が見える。それはいつもタンクの上に座っているトルエンで死んでしまった親友タンク(伊東美咲)

 他にも色々な「ちょっと変な事」が数珠繋ぎになっています。ばらばらのように見える数珠が、きちんとつながっているので、感心します。

ただただ、変な事の羅列ではなく、話は、3人がインドに行きたい、という意志らしきものを持つようになる。

ゲシル先輩が、(伝説作りの為に)銀行強盗をする、という話に資金を集めたい3人は参加。

それが、プレハブみたいな、小さな支店に100人くらいの人が集まって、わ~~~っと銀行に入る。大体あんな小さな支店に強盗全員が入れるのか?

それでも、皆、手に札を何枚か(たくさんでなくて何枚か、というところがいいですね)もってわぁ~~っと出てくる。警察も追い切れなくて、あきらめてしまう。

 全く、何が起きても平和な世界。ダメを肯定するでなく、否定するでなく、努力をするでなく、片手間のように見せていて実は念入りに考えられた脚本。こういう努力を見せない映画って、今、逆にめずらしいかもしれません。それが三木監督の鋭い所なんですけど。

 この映画は、三木聡監督の第一作目の映画で、撮影されたのが、4年前で映画完成することなく保留になっているうちに、2作目『イン・ザープール』3作目『亀は意外と速く泳ぐ』が公開になりました。

デモフィルム作ったけど、見せるプロデューサーが次々と腰引けちゃって・・・・ということですが、この映画、下ネタとか、エロチックな描写とかは慎重に避けています。笑わせようとするなら、下ネタ持ってきそうな所、エロチックにしようと思えばいくらでも出来そうな事を確信犯的にやっていない。

 安心して観られるというのは、こういう所からも来ています。意外と健全な世界、平和な世界。

休暇を取るために残業して仕事をしなければならない、無理して休暇をとらなければならない、満員電車のような帰省ラッシュにぐったり・・・今の日本の変な所を意外と突いているような気がします。

変なものを描いて、気がつかない変な所に気がつく仕組み。

まぁ、また、こんなに書くと、「変な映画ばっかりみて・・・」とか言われそうですけれども、変なの上等! 

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