グエムルー漢江(ハンガン)の怪物ー
怪物/The Host
2006年8月18日 有楽町 よみうりホールにて(試写会)
(2006年:韓国:120分:監督 ポン・ジュノ)
ポン・ジュノ監督、現在36歳。若いです。韓国のスピルバーグと呼ばれているそうです。
しかし、私は違うと思います。何故なら、スピルバーグは「皮肉な笑い」というものを映画にしないからです。
笑えるシーンはあくまでもわかりやすい、面白可笑しさであり、ポン・ジュノ監督が得意とする、どこか皮肉に満ちた、悪意ともとれるギリギリの笑い、というものとは種類を別にしたものなのです。
ポン・ジュノ監督の映画、長編『ほえる犬は噛まない』『殺人の追憶』、短編『シンク&ライズ』(『20のアイデンティティー』)、『インフルエンザ』(『三人三色』)・・・どの映画にも貫かれているのは、皮肉に満ちた笑いです。
暴力的な事を描いても、どこか奇妙で、何がおかしいのかよくわからないけれど、くすっと笑ってしまう・・・そんな微妙な笑いが上手い。
マンションで起きた子犬失踪事件、解決されない現実にあった猟奇的な殺人事件・・・そんな題材を選びながらも、その芯には必ず日常生活に潜む、ちょっとおかしな事を拾い上げ、絶妙なタイミングで紡ぎ合わせてくれます。
短編にしても、ささいな事からおきる意外な出来事や全て防犯カメラを通してのみの映像などアイディアの選び方も常人離れしています。
大変、観察力に優れた人だと思います。また、型にはまるような事を慎重に避けている人だとも思うのです。
そんな監督が、長編第三作目で、日本やハリウッドで描かれ続けている「怪物」を扱うとは。
しかし、型にはまるような事を今回もしていません。ですから、「毎回同じようなパターンの怪物パニック」を望む人には、向かないと思います。
ヒーローが出てこない、怪物を退治するのは平凡なある一家ですし、怪物自体も、普通だったら(今までのパターンでいくと)徐々に姿を現わして行く所を、もう映画の最初の方で、全身出してしまう。あまりにあっけらかんと出現してしまう怪物グエムルって所で、もう、意表をつかれてしまいます。怪物も巨大ではなく、その分俊敏にひゅんひゅんとスクリーンを飛び回る。ゴジラでもエイリアンでもないグエムル。
クリーチャー造形もこの映画の見所なのでしょうが、私が楽しんでしまったのは、登場人物たち。
父、ヒボンは『ほえる犬は噛まない』のボイラーキムさんの話をする警備員、『シンク&ライズ』の売店のおじさん、ビョン・ヒボン。
長男、カンドゥは、『殺人の追憶』の田舎刑事、ソン・ガンホ。
次男、ナムルは、『殺人の追憶』の恐るべき少年容疑者、パク・ヘイル。
長女、ナムジュは、『ほえる犬は噛まない』の健気でちょっと勘違いしている女の子だったペ・ドゥナ。
他にも、脇役で出ていた人がたくさん出ています。ポン・ジュノ監督映画が好きな人には大サービスなキャスティング。
漢江という大きな河のほとりで売店を営んでいる一家。誰も彼もなんだかなさけない。長男は36歳で娘は13歳になるというのに、売店で居眠り、するめを客に出せ、と言われて、足を一本いただいてしまう。客からイカの足が9本しかなかったぞ!家に帰ってきた娘に、缶ビールを出す父・・・・。
次男は大学を出たものの就職できずにぶらぶらしてる。皮肉屋で、酒飲み。
長女は、アーチェリーの選手だけれども、ここぞ、という所で失敗。
でも、そんな家族は長男、カンドゥの一人娘、ヒョンソをとても可愛がっている。店番がある父に代わって叔父さんが、授業参観に行く(しかも酒飲みながら)
しかし突然、のどかな観光地である漢江に、怪物が現れちゃうのです。
最初は、わーい、わーいって物を投げつけてるっていう所が好きですね。でも、ぎゃわ=======!!と逆襲してきて、大パニック!!!そんな中で、可愛いヒョンソが、怪物の尻尾につかまってしまった!
ここですぐに家族が団結する訳ではないのですね。集団葬儀のヒョンソの写真の前で泣きながらゴロゴロゴロゴロ喧嘩する家族たち。
それを写真にとるカメラマン達。
カンドゥはなんとか娘を取り戻そうと、火事場のバカ力を出してかなりとんちんかんに怪物に立ち向かうけれど、そのせいで、「怪物に接触した人間」という事で、家族そろって隔離されてしまう。病院でのどたばたどたばた・・・・そして、脱出して今度は団結して、生きているかもしれない娘を救出作戦をはかるのです。
しかし、これが、何かしようとすると、あれ?って肩すかしの連続というか、絶妙なタイミングで「上手くいかない・・・」が出てきて、もう笑ってしまいました。ヒーローや軍隊がバリバリと怪獣と戦うのではなくて、非力な一家族がゴロゴロしながら、怪獣の居場所を突き止めていく課程がもう、不思議な可笑しさ満載。私はそこが気に入りました。
私が一番驚いたのは、次男のパク・ヘイルです。ポン・ジュノ監督以外の映画では、清潔さわやか青年役が多かったのに、酒飲むわ、火炎瓶作りが上手いわ、短気で汚い言葉はきまくるわ、インテリだけど、ひねくれ者だわで、イメージが・・・。
『ほえる犬は噛まない』以来の、あのペ・ドゥナのどたばたとした走り方も良かったですし、しっかりしているようで、ちょっと抜けているお父さんも良かった・・・そして、長男のソン・ガンホのとぼけているようで「足でテレビを消すだけで至福感が出せる」コメディとシリアスの回転の早い演技。
私が1人で?気に入っている、笑った場面は、最初にグムエルと対決してボロボロになった家族。売店によろよろと戻ってきて一休みするときにカップラーメンを食べるのですが、じっと黙って、3分待つのですね。あれだけ派手なアクションの後に、カップラーメン出来るのを待つ3分間・・・・もう、その間合いのとり方、絶妙。カップラーメン食べた事のない国の人にはわかるのだろうか。あの3分間待つ気持。
それから、この河のほとりの売店、という設定は10分間の短編『シンク&ライズ』と全く同じ舞台設定。10分の短編と、怪物大作の基本設定同じ・・・というのも、監督のいたずら心が見えるような気がします。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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