ドストエフスキーの生涯の26日間

ドストエフスキーの生涯の26日間

2006年8月10日 千石 三百人劇場にて(ソビエト映画回顧展06)

(1980年:ソビエト:80分:監督 アレクサンドル・ザルヒ)

 この映画、残念ながら原題がわかりませんでした。ロシア語表記でなくてもせめて英語で、と思ったのですが。

ついつい、ロシア文学、ドストエフスキーとかトルストイ・・・というと敬遠してしまう長い小説、書いた人も偉大なる人、というとっつきにく人のように思えます。

私も昔、『罪と罰』を読んだくらいで、ドストエフスキーの人となりは知らないのです。ロシア文学にも詳しくないし、ソビエト情勢にも詳しくない。タイトルからして・・・最初は、観る気持はなかったのです。

しかし、時間の都合から、80分だし・・・なんて軽い気持で観たら・・・これは非常に良く出来た映画でした。

 いきなり、ドストエフスキーが、借金で首が回らず、しかも、悪徳出版業者から、あと26日間で作品を書かないと、版権を全てとりあげる・・・という罠にはまってしまってあせり、ウロウロするドストエフスキーです。版権とられたら、印税が入らない・・・どうしよう・・・で、速記者を呼んで口述筆記をしようという手に出ます。

 そこに、やってくるのが、まだ20歳のアンナ・グレゴーリエヴナという女性。

『罪と罰』などドストエフスキーの著作が大好きなアンナは、憧れの作家の速記者になれる・・・とワクワクした様子ですが・・・どうも、ドストエフスキーは、狭量で、貧乏で、落ち着かず、気むずかしいような、小心者のような・・・アンナは意外。

 しかし、期限は迫っています。そこで、後に『賭博師』という作品になる小説を口述筆記を始めます。

小説のヒロインにだぶるのは、妻を亡くした後、愛人となって自分の元から去っていった女性、アポリナーヤ。

そして、ドストエフスキー自身が、ギャンブルに夢中になり、自滅していった苦い思い出。

つまり、この小説は極めてドストエフスキーの私小説に近い訳です。映画は、小説のシーンとドストエフスキーの回想を織り交ぜて進みます。

この画面の切り替え方がとてもスムーズで、訳わからなくなる、ということもなく、かといって説明的なだけでなく、小説、過去、現在の3ステージが同時進行するという上手さがあります。

 こうして2人3脚の生活が始まりますが、このドストエフスキーが、もう、プレッシャーに押しつぶされてます・・という情けなさぶり全開。

いつも、オロオロ、早口。また、字幕ではアンナと出ますが、台詞では、いちいちアンナの事を「アンナ・グレゴーリエヴナ」と呼んでいて、若い速記者とは距離をとろうとする真面目さが出ていました。

 ドストエフスキーを演じたのは、『アンドレイ・ルブリョフ』の主役をしたアナトーリー・ソロニーツィンで、この映画の演技でベルリン映画祭男優賞を受賞しています。

アンナもまた、真面目そうで、とても身なりのきちんとした服装をしています。しかし、だんだん、話が進んでくると、「これは納得いきません」とストーリーに疑問を持ったり、アンナを怒らせたドストエフスキーがごめんなさいって謝りに行ったり、アンナが、立ちすくんでしまうドストエフスキーの背中をさぁさぁと押したり・・・そして、小説は期限までに書き終えるのか?といった間の持たせ方、とても小粋なサスペンスにもなっていると思います。

 このアンナ・グレゴーリエヴナが、後のドストエフスキーの生涯の伴侶となるのです。その年齢差は25歳。その後、『白痴』『カラマーゾフの兄弟』などの執筆の良き助手として、ドストエフスキーを支える女性になります。

この映画は、2人の直接的な愛情表現というのは避けているのですが、その分、ラストのアンナの一言がぐっときます。

そして至福感に包まれるという・・・決して大作ではないのですが、重厚でありながら、軽さがあり、可愛らしさを感じる映画とても好きです。

 私は、ロシア映画、文学、情勢について詳しくないのとこのソビエト映画回顧展06にはパンフレットがなくて資料が少なく、、これを書くにあたって、ロシアの文学、映画に大変詳しいぱりゃーなさんのサイトを参考にさせて頂きました。

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