コントラクト・キラー

コントラクト・キラー

I Hired A Contract Killer

2006年8月3日 日比谷シャンテ・シネにて(BOW30映画祭)

(1990年:フィンランド=スウェーデン:80分:監督 アキ・カウリスマキ)

 簡素。シンプル。殺風景。無表情。淡々とした空気。気取りのまったくない世界。

アキ・カウリスマキ監督の映画は、多くの映画人たちが、あの手この手で、華麗な、派手な、娯楽、喜怒哀楽、自分の主張を出そうと苦心しているのから、遠く離れたところで、ひとりでラジオなんか聞いて暮らしてます、という印象の映画を作り、それが見事な面白さを出してしまうから、アキ・カウリスマキの映画は、馬鹿に出来ないのです。

 いつも貧しい人々を描きながらも、その底に決してユーモアを忘れない。無表情だからこそ、奇想天外な事が起きると逆に不思議なリアリティを出してくる。

 この映画の舞台はイギリスです。そして主人公は、フランス人のジャン・ピエール・レオを起用しました。

しかし、相変らずの空気です。

イギリスの水道局で地味な事務仕事をしている主人公ですが、民営化の為、外国人から先に・・・ということで突然の解雇。

退職金かわりに、金時計をもらっても、壊れてる。

主人公は、何も言わずにそのまま、金物屋に入って、ロープを買う・・・そこで自殺しちゃうのね、とわからせる語り口は、心憎いほど。

しかし、ロープは釘がはずれ、失敗。では、ガス自殺・・・と思うとしゅしゅしゅ・・・・ぽ・・・ガスは止まってしまう。

そこら辺を台詞をほとんどなくして、サイレント映画のように綴るのですね。

 無表情に主人公は、殺し屋請け合い業の所へ行き、「自分を殺して下さい」と契約してしまう。

コントラクト(契約)殺人者・・・というのはここから来ています。

 所が、ひょんな事から、主人公はある女性と出会って恋してしまう。やっぱり契約やめます・・・と言いに行くと、殺し屋請け合い業の会ったところは工事で取り壊されて・・・・契約破棄が出来なくなってしまった主人公・・・それでも、無表情で呆然としている。

 ひたひたひた・・・・と契約通り、謎の殺人者は迫ってくる・・・生きる望みが出てきたので困ってしまう主人公。それをサスペンスでなく、実に淡々と描いていて、もう、哀愁とユーモアの世界にしてしまうところ、凄いです。

なんせ、死にたくて頼んだ殺し屋が、実は肺病で余命いくばくもない、という設定になっているのです。

 相変らず、アキ・カウリスマキの映画の映画に出てくる食べ物はまずそうです。実にまずそう・・・。人間が一番興味を示す一例である食べ物に執着しない、というのも特徴です。

また、何故、フランスからイギリスに来たの?という質問には「皆に嫌われたから」とだけしか答えない無愛想。

無愛想なようで実に可愛らしい「生きるべきか、死ぬべきか」という深いものをもった小品佳作映画を作り上げてしまう、監督の不思議な魔術にびっくりしてしまいました。

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