王と鳥

王と鳥

Le Roi et l'Oiseau

2006年8月2日 渋谷 シネマ・アンジェリカにて

(1980年:フランス:87分:監督 ポール・グリモー)

 ロバと王様と私

 明日みんな死ぬしょう。

 ロバは飢えで、

 王は退屈で、

 そして、私は恋で。時は五月。

 これは、劇中に歌われる歌なのですが、脚本と歌の歌詞を担当したのは、フランスの国民的詩人、ジャック・プレヴェール(映画『天井桟敷の人々』、シャンソン『枯葉』の歌詞なども担当)

さすが、フランス。おフランス!アニメといえども恋で死んでしまうのか・・・素晴らしいですね。

 私が学生の時、寺山修司の本で、『やぶにらみの暴君』というアニメーション映画の事を知りました。昔は、結構あちこちで上映されていました。カルト的な人気を持つフランス初の長編アニメーション映画だったのです。

しかし、『やぶにらみの暴君』は1952年、ポール・グリモー監督が作ったアニメ映画なのですが、あまりに製作費がかかりすぎ、4年たっても完成しないので、監督の許可を得ず、公開されてしまいました。(日本での公開は1955年)しかし、世界的に評価されてしまったのです。

納得のいかない監督は、訴訟を起こし、作品の権利とフィルムを取り戻し、27年後、1979年、半分以上のシーンを作り直し公開したのが、この『王と鳥』でした。なんとも、執念を感じる・・・。

だから映画の冒頭に、「歌のうち、4曲は『やぶにらみの暴君』のものを使った」と字幕が出ます。確かに、このアニメ、音楽と歌が素晴らしい。

監督もさすがにこの美しい歌は切れなかったというのは納得です。

 原作はアンデルセンの童話『羊飼いと煙突掃除人』ですが、原作に忠実なのは、羊飼いの娘と煙突掃除人の青年だけで、後はもうオリジナルに近いそうです。

タキカルディ王国の暴君、シャルル5+3+8=16世は、民から嫌われ、王も民が大嫌い。狩りと孤独だけがお好みのわがまま暴君。

全て、王1人の為に作られている王の高層王宮。王宮=国というとても広大な王宮。

便利なのは、王が気に入らない人がいると、ボタンを押すだけで、その床がぱかっとあき、即落としてしまう事が出来るのでした。次々と気まぐれに人々を落としてしまうシャルル(長いから略)王。

 王宮の297階(って所がいいですね。エレベーターをのりついでいくのだ)の王の秘密の部屋には美術品が並んでいる。

シャルル王は、その中でも美しい羊飼いの娘の絵がお気に入り。しかし、となりには美しい煙突掃除人の青年の絵があり、この2人は恋をしている。自分の肖像画を描かせて並べた王が、夜寝ている間に、絵が動き出す。

娘の手をとり逃げようとする青年。それを見た、肖像画の王は、嫉妬にかられ、自分も絵から飛び出す。

王に反感を持っている王宮に巣を作っている鳥が、この若い2人の逃亡の手助けをする。

次々にあの手、この手、しまいには巨大ロボットまで操作して、2人を引き離して、美しい羊飼いの娘を手に入れようとする王。

 このアニメは、今のCGを駆使したアニメにない、やわらかい色合いと優雅な動き・・・特に手の動きなどはバレエのように優雅です。

今の日本のアニメにあまりないのが「優雅さ」である、ということだと思うのですが、青年が娘に手をさしのべ、その手をとる娘のシーンなど、もう手の動きにうっとりします。

アニメというのは、どういう動きも表現可能な訳ですが、このアニメは優雅。それにつきます。

また、暴君であるシャルル王の表情がまたいいですね。やぶにらみ、というよりより目の王。自分1人の世界のわがままで孤独な王。

わがままと孤独はとなりあわせなのです。高慢以外はもう表情がない王です。

 実は、王には愛犬がいて、これがかわいい犬なんですが、だんだんこの犬、かわいい顔の裏に隠す腹黒さをちらりちらりと出し、王のお気に入りのようなあどけない、かわいい顔の裏に、鳥たちの味方をするような事をする。側近たちは、皆、王におべっかを使うだけですが(変におべっかを使いすぎると、気むずかしい王即、ボタンで落とされちゃいます)、唯一王を見抜いて、上手く立ち回っているのが、実は子犬であるというのも皮肉。

 そして王宮の地下には、太陽を見たことがない民たちがいる。そこへ逃げ込む2人。追ってくる王。そこで、賢い鳥は、地下に飼われているライオンや猛獣たちを、詭弁で動かし、王宮を襲わせる。フランス革命ですねぇ。

また、鳥の詭弁に国民たちも動き出す。しかし、何も知らない国民は鳥の言葉を信じて、ライオンたちを見て「鳥たち万歳!」と叫ぶところが、また、なんとも皮肉。

 アレクサンドル・デュマの『ダルタニャン物語』の第三部は、いかに太陽王ルイ14世が、国は王であり、王が国なのです、という暴君ぶりを発揮する所がえんえんと出てくるのですが、物語には出てこないけれど、それが国民の不満をあおり、ついにフランス革命となるのです。

そういう歴史があるフランスならでは、の設定、物語。

 アニメのテンポはどんどん早くなり、追いつ、追われつの追っかけ合いになり目が離せない展開になります。

そしてラストの寂寞感。

独裁国の隆盛と崩壊を描いた大人の世界でありながらも、子供も楽しめるものとなっていて、奥の深いアニメです。監督がここまで、あきらめずに作り続けたという綺麗な妄執。シャルル王という暴君は今の世界にもあちこちにいる、という普遍のテーマを持っています。

 個人的には、ホームページっていうのは、私の王国で、好き勝手な事を書けるけれど同時に孤独であるって・・・なんだか自分がシャルル王みたいな気分にもなったりしました。

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