靴に恋する人魚

靴に恋する人魚

The Shoe Fairy/人鱼朵朵

2006年9月21日 新宿武蔵野館にて

(2005年:台湾:95分:監督 ロビン・リー)

 この映画は「少女が本当のお姫様になる為に」という事です。

ベースになるのは人魚姫の話ですが、童話やお伽噺というのは、子供への教訓といった事もあるかもしれないですが、殺されちゃったり、食べられてしまったり・・・といった残酷なシーンが多く含まれます。

映画の美術や登場人物は、本当に可愛らしい、お伽噺のような、ある意味、リアリティのない人々なのですが、それを演じきったビビアン・スー実はこの映画の時は30歳。

それで、靴の大好きな少女が、お姫様になる・・・という「可愛らしさ」だけでなく、人魚姫の受ける苦難をも体現するということで、若いかわいいだけの女の子では、演じきれなかったと思うのです。

 ドドという可愛い少女は、足が悪くて歩けない。お父さんやお母さんは色々な絵本を読んでくれる(この絵本の絵がメチャクチャ怖い)のですが、足が欲しい・・・そして、悲劇になってしまう人魚姫の話だけは避けている。

しかし、ドドは根性で絵本を読む。魔女に足をもらえるかわりに、声を奪われる・・・・・そんなドドは手術を受けて、歩けるようになり、靴の大好きな女の子に成長するのでした。靴が大好きなドドは、歩けるようになったのだから、私は声が出なくなるのかしら・・・そんな心配をする。

 もう、この靴だけでなく、小物がもうたくさん出てきてそれはそれは、凝っています。でも、鬱陶しいような色使いはないけれど、ドドはお気に入りの靴屋さんで、次々と買う靴が、もう、カラフルでちょっとありえないような、まるでお伽噺のような靴ばかり。

ビビアン・スーはこの言い方変えれば奇妙な靴を器用にはきこなす。

 映画は、ナレーションで進んで行きますが、このナレーションがアンディ・ラウ。この映画の製作総指揮をしていて、ナレーションがとてもユーモラスで、あまり関係ないような事を飄々と語るのが、香港のアニメ『マクダル・パイナップルパン王子』(この映画の声もアンディ・ラウでした)のようです。

いわく、「男の子は、女の子の靴なんか見ない。車が大好きだから女の子と話さないで車とばかり話をする」

そうすると本当に、いつも車を磨いていて車にしか話しかけない男の人が、ずっと出てきたりします。

ドドは出版社で経理の仕事をしている。社長は、折り紙が趣味で、変な折り紙ばかり作っては自慢している。部屋は折り紙だらけ。

働く同僚の男の人たちは、もう、パソコンの画面に顔をうずめて、ドドの事なんか見ない。

そんな中、そろばん(!)をはじきながら、会社の雑用をこなす、ドド。

ナレーション曰く「トイレ掃除、お茶くみ、ゴミ出し・・・・雇用契約書には、きっとあぶり出しで、トイレ掃除、お茶くみ、ゴミ出しって書いてあるに違いない」

ドドがアルコールランプで契約書をあぶると・・・手書きの雑用が浮き出す・・・社長、きっとみかんの汁で書いたのね・・・・「ドドはこの部分だけ切り取ることにした。自分が男の人を使うようになったらこの文言を使うためだ」

 さて、お姫様だけで人魚姫の話は成立しません。そう、王子様が必要なのです。

虫歯になったドドは、仕方なく、「看板も笑顔、受付も笑顔」の「スマイリー歯科医院」に行く。そこで出合うのが、ハンサムな歯医者さん、スマイリーことダンカン・チョウ。

歯医者の椅子にすわって、うぃーんて始まると、緊張で足がつっぱる・・・・足をつっぱらせたら、可愛いサンダルが脱げてスマイリーの頭に当たってしまった!スマイリーはそこで、こんな可愛い靴が似合う女の子が!

自分の大好きな靴をちゃんと見てくれる優しい王子様の登場。

そしてとんとん拍子で、2人はおつきあいし、結婚するのです。

 では、お話はここでめでたし、めでたし・・・ですか?というと、ここからが問題なんですね。

人魚姫の話は、悲劇。可愛らしい2人の様子を描いても、人魚姫の話の通りになっていく。

それでも映画のテンポやナレーションは相変らず、可愛らしく、ユーモラスに進んでいく。プレゼントに靴磨きのブラシをくれたスマイリー。

箱の中身は何?鉛筆?(っていう所が可愛い)と箱をかたかたと振ってみる。

しかし、ドドが丁寧に作ったケーキの箱をスマイリーは、これは何だろうね?とガシガシっと振ってしまって、ドドはがく。。。。

そんなユーモラスな情景を惜しげもなくどんどん出してくる所が凄いです。もう、アイディアや小物が次々と繰り出されてくる。

 ドドとスマイリーを演じた、ビビアンとダンカンが、この映画で一番印象に残っているシーンは?という問いに、ドドがスマイリーに髪を洗ってもらう所、と答えていましたが、幸せばかりが続かないドドが、声が出ないのではなく、悲しくて悔しくてやりきれなくて、でも、申し訳なくて、声を上げて泣けない、声を殺して、声が出せないのだ・・・というひねり方にびっくりします。

 それでもドドは最後は本当の人魚姫にちゃんとなるのです。

穴から落ちてしまう所は『不思議の国のアリス』だったりたくさんの童話がふんだんに盛り込まれていて、その見せ方も綺麗でユーモラス。

誰にも真似できないようなセンスが盛りだくさんで、アイディア次第では、悲しい状況も微笑ましく、可愛らしくできるのだ、という新鮮さを感じ、ほとほと感心しました。

 靴屋の女主が魔女のようで、ドドに「黒い羊と白い羊を見つけなさい」と忠告する。

マッチ売りの少女が出てきた時にマッチの箱には黒い羊と白い羊、そしてその裏には羊をいれる箱が書いてあり、空気穴が3つあいている。

その穴をのぞいたら・・・・どんな幸福が待っているのだろう。

 とても作り込んだ世界なので、美術が賞をとったというのがよくわかりますが、それを、楽しく、微笑ましく、可愛く見せるという力がとても強くて、映画ならではの世界です。こういう映画はとても好きですね。わかりやすいようでも、意外と、「幸福の先にあるもの」をきちんと見据えている。ハッピー・エンドが全ての終りではなく、歩いていく道のあちこちに「ハッピーなもの」があるのです。

そういう、甘いだけでない、ちょっとシビアな大人の世界だというところもとても気に入っています。

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