弓
弓/The Bow
2006年9月14日 渋谷 ル・シネマにて
(2005年:韓国:90分:監督 キム・ギドク)
キム・ギドク監督12作目。その世界はますます余計なものはそぎ落とされ、シンプルになっていくのに、描く世界の芯はどんどん太くなっていくような気がします。
キム・ギドク監督は、オリジナル脚本しか映画にしません。
有名、人気のある原作、有名な俳優に頼らず、自分だけの世界をきちんと構築してみせます。
どの映画を観ても、監督の強い自信が伺えるのです。
そこがとても好きな所です。
この映画の舞台となるのは一艘の釣船だけです。カメラはずっと海の上の船しか映しません。
そこに住む老人と少女。老人はボートで釣り客を連れてきて、釣りをさせてまた返す。少女はずっと船にいる。
少女は老人の孫ではなく、6歳の時に船に連れてきて、17歳になったら結婚するつもりなのです。
少女はそれに対して何の疑いも抱いていない・・・というのが前半、よくわかります。老人と少女は言葉を交わさない。
釣り客が、女の子にちょっかいを出そうとすれば、すぐに老人の弓から放つ矢が、ビシッ。
船は色とりどりの布で飾られている。冬で釣り客たちは、防寒具に身を固めているのに少女は薄着。
鳥肌ひとつたてない美しい肌。
しかし、釣り客にひとりの若者が来た事から、老人と少女の2人だけの世界の均衡はくずれてしまう。
若者に恋して、反抗的になり、老人を翻弄するような目をする少女を演じたのは『サマリア』にも出たハン・ヨルム。
もうすぐ17歳。結婚式を挙げる準備を着々と進める老人を、気持悪いものでも見るかのように見つめる少女。その変貌ぶりがあまりにも急なので、若い女性の残酷さというのが、際だっています。
そして、若者に恋した少女は、手に手をとって世界にはばたいて行きました・・・にならないところが凄い。
少女は老人を突き放して、同時に受け入れるのです。映像は色鮮やかで美しく、周りは海、静かな世界、そこにうずまく愛情と憎悪。そして弓、というもののシンボリックな使い方。
とてもエロチックなのですが、直接的ではなく、とても寓話的。神話的とも言える弓の使い方です。
弓は色々なものを象徴しているのかもしれませんが、一番はやはり「男性」だと思います。
衝撃的とも言える弓の使い方のあれこれ。痛いシーンではなく、痛そうに見えて実はとても意味深、というのは前作『うつせみ』のゴルフクラブにあたるものかもしれません。
音楽は、へグムという韓国二胡をふんだんに使って、弓の意味をどんどん変えていく。そして少女も変わっていく。
船の中という究極の狭い空間の中で、繰り広げられる愛憎劇。それを、哀しく、美しく、そして力強く描いた映画で、観る者を圧倒します。
観客に媚びたり、迷いが見えたりといったことは全くなく本当にキム・ギドク監督は自分に自信を持っている、と思うのです。
更夜飯店
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