阿Q正伝
阿Q正伝/The True Story of Ah Q
2006年9月7日 千石 三百人劇場にて(中国映画の全貌2006)
(1981年:中国:120分:監督 岑范)
1893年スイス国際喜劇映画祭最優秀主演男優賞受賞
中国の文豪、魯迅の代表作の映画化です。しかし、魯迅やその家族は、小説の映画化には反対し続けて、映画が作られたのは小説発表されてから60年後の事だったといいます。
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』も映像化を家族、遺族が反対していて、なかなか映像化できない、といった事と同じです。
やはり、映像化ということで原作の世界を壊されてしまう懸念のある小説というのがあるのです。
しかし、この映画は、原作に忠実にして、映画として原作を損ねる部分は全くないそうです。
この映画は、辛亥革命(1911年)前後の浙江省のある農村を舞台にして、当時の農民が封建地主階級に政治的、精神的に抑圧されていた悲惨な姿をコミカルに風刺を効かせて描きます。
悲惨といっても、気持の重くなるような、気の滅入るような描写はありません。あらあら・・・と観ている内にその深い所の抑圧に気がつくという上手さがあります。
主人公の阿Qを演じた厳順開は、スイス国際喜劇映画祭で最優秀主演男優賞を受賞しているように、とてもコミカルな人物。
コミカルというか、ピエロなんですね。
地主の日雇い人夫の阿Q。身分が低く、自分の姓すら持っていなくて、ただの阿Qです。
お調子もので、周りからはいつもからかわれても、それを気にせず、いつもとんちんかんなお気楽な事を言って、笑われている。でも、そんな阿Qは、皆を笑わせるピエロのような存在。頼まれれば何でもやる貧農ですが、何があっても、気楽に前向きにちょっと勘違いしているな、と思うくらい楽天的です。それは、最後の最後まで、阿Qの姿。
地主の姓と自分は同じだ、などと吹聴して歩き、地主から追われてしまう阿Q。しかし、追われて城内(都市)に行ってしまった阿Qは、金を儲けて戻ってくる。周りの態度は一変して、調子に乗ってしまう阿Qなのですが、辛亥革命が起きて、革命が起きれば、自分も出世できる!なんて調子に乗ったばかりに起きてしまう皮肉な悲劇。
結局、辛亥革命というのはブルジョワ階級の闘争であって、農民なんて関係なかったのです。それに気づかず、自分に都合のいい、妄想ふくらませていく阿Qのピエロぶりが凄いです。阿Qの妄想の中の革命、とは、京劇の舞台であり、華々しい活躍をして、自分を虐げた地主たちはばったばったと悪者として、捕まる。農民が主役の社会がやってくるのだ!なんて妄想をする。
これは、後の中国の歴史、文化大革命が起きる事を思うと、あながち間違いではないのですが、結果として、どうなったか・・・そんな事までちゃんと見抜いているのが凄いです。
この阿Qのめげない、楽天ぶり・・・・変に頭が良いよりも、ちょっと抜けていた方が、生き抜けるのかもしれない、なんて皮肉も描かれています。そして、結局、地主や金持だけが、いい思いをする社会の仕組みへの鋭い批判になっています。
更夜飯店
過去持っていたホームページを移行中。 映画について書いています。
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