駱駝の祥子(シャオツ)

駱駝の祥子(シャオツ)

駱駝祥子/Rickshaw Boy

2006年9月7日 千石 三百人劇場にて(中国映画の全貌2006)

(1982年:中国:117分:監督 凌子風)

 今、資料を読んでみると1982年というのは中国映画は佳作、名作ぞろいの年だったのですね。

監督の凌子風という人は、中国映画でいうと第二世代の監督です。今、中国映画で活躍している若い監督は第五世代、第六世代と言われていますから、古典的な名作映画、とも言えると思います。

中国映画の全貌シリーズでは、毎回のように上映されていたこの映画、最後になってやっと観ました。

 この映画は、人力車夫の話です。まだ、車というものがない時代の北京の風景を丸ごとセットで再現したという・・・また、当時の言葉なども大学教授を招いて、きちんとした昔の北京語を脚本にしたそうです。この言葉の微妙な違いというのは、日本映画だったら昔の言葉遣いというのがわかるのですが、残念ながら中国語に関しては私は字幕にたよるしかありませんでした。字幕も苦労していて昔風の日本語にしたりしていましたから、なんとなくはわかるのです。

 田舎から出てきた祥子という青年が、3頭のらくだを売って、お金を作って北京の街に出てくる所から映画は始まります。

真面目で朴訥で、酒も賭け事もやらず、体力だけで、こつこつと人力車夫をする祥子。

最初は、人力車屋から車を借りて、生活しますが、祥子はお金をためて、自分の車を持ち、独立するのが夢です。その為に、遊びもせずひたすら真面目に汗を流して、人力車を走らせる祥子。

祥子が走り回る、北京の街の風景がとても美しい。そして、活気にあふれている。

 そんな祥子に目をつけたのが、車屋の娘、虎。車屋を実質経営しているのは実はこの虎で、気の強いやり手の経営者。

強引に祥子と結婚。長屋で出合うのが、貧しくて自分の体を売って家族を支えている、美しい娘、小福。

 一見、虎という女性は「悪者」で、健気な小福が「善者」のように思えるのですが、生活力があって結局、祥子を助けるのは、虎です。

虎という女性を演じた、スーチンカオヤーという女優さんの存在感が凄いです。ただの強欲女ではなく、しっかり者で生き延びる力、家族をひっぱっていく強さを持っているのは、祥子でもなく、小福でもなく、虎です。

強引な結婚でも、虎の金で自分の車を持てた祥子。なんだかんだいって、祥子は虎を大事にする。

この映画では、市場というのが沢山出てくるのですが、その市場の様子が、とても活気があっていいです。

虎にねだられれば、祥子は、好きなものを買ってあげる。子供が出来た、となれば、仕事も家庭もますます大事にする。

 しかし、そんな幸せは長くは続かない。出産で、虎を失ったとたん、祥子も小福も、悲劇の坂を下り落ちるような結果になってしまう。

真面目に、悪い事などせず、正直なのに、そんな誠実さだけでは生き延びていけない旧社会の厳しさを美しく描いていました。

正直者が馬鹿を見る・・・そんな一言ではあらわせない、複雑な社会の仕組みを、美しい、悲しいドラマにしています。

 真面目なのはいいけれど、真面目だけで、器用さ、したたかさに欠ける誠実青年、祥子。こういう役を今やるとしたら、リウ・イエがぴったりです。


*********追記**********

後日、老舎原作を岩波文庫で読みました。

イギリス、ガーディアン紙の死ぬまでに読む1000冊の本にこの本が入っているという古典でした。読んでみると、映画は原作に忠実で、大変読みやすい物語でした。

祥子を演じた张丰毅という役者さんは、後にジョン・ウー監督の『レッド・クリフ』で曹操を演じていました。この映画の頃はまだ青年。

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