マッチポイント
Match Point
2006年9月5日 恵比寿ガーデンシネマにて
(2005年:イギリス:124分:監督 ウディ・アレン)
デュースになり、あと一点で、勝つか負けるかのマッチポイント。
ボールがネットにあたった時、それがどちら側に落ちるかの瀬戸際。
テニスをやった事がある人は、この状態がずっと続く、主人公クリス(ジョナサン・リース・マイヤーズ)の苦しみがわかると思います。
この映画のテニスのボールにあたるものは、「コンプレックス」
コンプレックスというボールが遠くに飛び、それが相手に打たれて、自分の所に戻ってくる、それをまた打ち返し、また戻ってくる・・・この映画はそういう映画です。テニスになぞらえた所が、上手いと思います。
ただただ、説明的に描いてしまったらとても俗っぽい映画になってしまうところを、ギリギリの瀬戸際で「上流映画」にしてしまっている。
ウディ・アレンの映画によく出てくるのはコンプレックスと虚栄心のような気がするのですが、この映画での主人公クリスは、貧しいアイルランドの家の出身で、プロ・テニスプレイヤーをやめた後、高級会員制テニスクラブのトレーナーになる。
そこから、クリスの人生は、とんとん拍子で、上流階級の仲間入り。生徒のトムが大企業の社長の息子で、親しくなった所、その妹に気に入られ結婚。大企業にも入って、地位を高めていく・・・・しかし、そんなとんとん拍子に、クリスは堂々と接する事ができない。
それはどうしてもコンプレックスがあるから・・・顔では、成功の階段を登る青年ですが、内面はもう、コンプレックスに押しつぶされそう。
虚栄心の塊でもあり、周りからは、野心家に見えるかもしれませんが、実は内面は虚栄心でいっぱいな様子。
そのゆがみ・・・は、トムの婚約者だ、と紹介されたアメリカ人の女優志望の美しい女性、ノラ(スカーレット・ヨハンソン)を独り占めしたいという欲望となって現われる。
妻と結婚したおかげで得た上流生活、地位のある仕事、虚栄心を満たす満足・・・・しかし、クリスは、どうしても無理している。
欲が高じて、クリスは、ノラを愛人にする。もう、上流階級の息苦しさの欲求不満のはけ口が、性欲になってしまったような感じで、ここら辺、ものすごく生臭いのですね。端から見たら、いいことづくめ、でも実はそんなものではないんですよ、もの凄く俗っぽいものなんですよ、という説得力があります。そこら辺のひねくれ方というのが、特徴です。
しかし、そんな都合のいいことばかりではなく、クリスはそんな自分の作った穴を嘘や見栄で密かに尻ぬぐいをして、涼しい顔をしていなければならない、精神的にはどんどん追いつめられるばかり。。。マッチポイント連続生活、そんな苦しさを綴った映画です。
ジョナサン・リース・マイヤーズはそんな「実はとても小物」という人物を好演していました。焦ったり、困ったりすると、顔が赤くなるのです。
嘘に嘘を並べ立てて、でも顔は赤く、目は充血気味になっていくので、バレてしまうのかもしれない、という気持を抱かせる。
スカーレット・ヨハンソンは、本当に肉欲的な美人。美しいだけではなく、どんどん、別の意味で泥沼にはまっていく様子、綺麗なだけではない迫力のヒステリー演技は凄いですね。
映画はとても苦いものを残して終わります。どう決着がつくのか、先が読めないのですが、これからのクリスはどんな人生になってしまうのか・・・なんとも渋い苦さを残す。
ウディ・アレンが初めて、ニューヨークを離れ、イギリスで撮った映画。
アメリカとは違う上流階級というものを、コンプレックスで綺麗な映像で、サスペンス仕立てにした所、また、音楽も意味深なオペラ音楽を使っている所、私はウディ・アレンは、パリとか・・・他の国でどんどん映画を作ったらいいと思うのですが。
更夜飯店
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